第31章 普賢象
密さんに枕にされて数時間。
そう感じるのは動けないせいかもしれない。
本当は数十分の出来事で…なんて、ミステリー過ぎて考えるのをやめた。
「密さん」
「…」
「本当は起きてますよね」
「……」
「千景さんのこと、何ですけど」
少し肩が揺れる。
ほら、やっぱり起きてる。
「知り合いだったり、します?」
「…芽李こそ」
この話は堂々巡りになりそうで、口を閉ざした。
「何でそう思ったの」
それ以上お互い踏み込まないものかと思ったのに、密さんが深く入ってくるから、その話を辞められなかった。
「密さん、千景さんに動揺してたみたいだから。密さんこそ」
「それ」
「え?」
「"千景"って、呼んでなかったよね」
「あ…」
「みんなの前では隠してるのかなって」
「…あ、いや。うん…」
「図星」
「…」
「これは、オレの憶測だけど」
「はい」
「………やめた」
そう言って、また私の膝を枕に目を閉じる。
「辞めるんですか?」
「言ったら、オレとも距離置くでしょ」
「置きませんよ。ウリエル大好きなんで」
「誤魔化した」
「バレました?でも、好きですよ、密さんのお芝居」
「オレの周り芝居ばかしかいない」
「ふふ」
「アイツが、旦那さん?」
「…アイツって?」
「千景」
「支配人ですか、東さんですか?」
「どっちも違う。芽李の態度」
そんなにわかりやすかっただろうか。
密かさんを覗き込むと、ぐいっと顔を抑えられる。
「近い」
「すみません」
「オレはよく覚えてない。だから、まだ答えられない」
「じゃあ、思い出したら教えてくれます?」
「マシュマロくれて、オレの気が向いたら」
「フェアじゃないじゃないですか」
「オレは聞いただけで答えてって言ってない」
ちょっとムッとして、密さんの髪を掴む。もちろん優しく。
「何してんの」
「ムッとしたので、髪結んでやろうと思って編み込みしてます」
「変なの」
「可愛いゴムで恥ずかし攻撃です」
「いいけど、オレ多分違和感ないよ」
その通りすぎる。
「照れないんですか?」
「別に。ふぁあ」
あくびをした密さんに、こっちまで眠くなってくる。
可愛い攻撃も無駄だと?と思いつつ結局最後まで結ぶ。