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3月9日  【A3】

第20章 白雪


 朝目が覚めた時私はベッドの上にいて、覚醒しない頭ではその状況がよく分からなかった。
 …でも、私の部屋であることだけはわかった。

 視線を動かした時、カーテンの隙間から溢れた朝日に反射したのは、ミルクティーブラウン。
 綺麗だなって思うのと同時に、ベッドにもたれるように眠っている至さんに、なぜこんなとこで寝ているのかと思った。

 起こして聞こうか、そっと肩に手を伸ばして触れようとした時、思い出したのは昨日の冷たい視線。
 慌てて手を引っ込めた。

 あと私なんて言ったっけ?

 …好きって言ったんだ。

 カァッと顔に熱が集まるのを感じる。
 耳まであつい。
 言葉にしただけで、こんなふうになるってある?
 思えば、今までだって結構甘い時間はあったはずなのに、今更だ。
 どうしよう、なんだか、無性に落ち着かない。
 なんて、あんな顔向けられといて、勝手に照れて馬鹿みたいだ。

 ジェットコースターみたいに急降下した気持ちを、隠すようにして、引っ込めた手を改めて伸ばし、至さんの肩を恐る恐る摩る。

 「…ん」

 起きるかなって思ったのに、声を少し洩らすだけで伏せられた瞼が開くことはなかった。
 寝てると幼い顔してるんだな…。
 長いまつ毛、本当に整った顔をしてる。

 ぴぴっ

 突然なった音にビクッと肩を揺らす。
 どうやら、目覚ましより前に起きてしまっていたらしい。

 慌てて止めた後至さんを見れば、何事もなかったかのようにまだ眠っている。

 …どうするべきか。

 まだ朝は、早いし…。

 ラグマットが敷いてあるとはいえ、床に寝るのは体が痛くなりそうだし…。
 私じゃお姫様抱っこでお布団に寝かせるのも難しいだろう。
 かと言って、起こすのもかわいそうだ。
 仕事まで寝ていたいだろうから。

 ベッドから抜け出て、とりあえずで私の布団を肩にかけた。

 それでもやっぱり至さんは起きなかった。

 朝食の準備もあるし、もうそろそろ行かないと。

 「至さん、ごめんなさい」

 そっと声をかける。

 もしも、お仕事に行くくらいの時間まで起きて来なかったら、起こしにきます。
 と思いつつ、いつも起きてくるくらいの時間に目覚ましをセットしなおして、至さんのそばに置いた後部屋を出た。

 寝静まった寮は、ひっそりと暗い。
 それから少し寒かった。
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