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3月9日  【A3】

第19章 上匂


 万里に送ってもらった住所に向かって走る。
 頼むからここであっててくれ。

 すれ違う大人たちはどこかお酒の匂いを漂わせて、秋の風はつめたかった。

 荒々しくドアを開けて入れば、カウンターにうつ伏せている芽李がいた。
 その横にちゃんと携帯も置いてある。

 目の前のマスターに会釈をすれば、優しく微笑まれた。

 「すみません、注文じゃなくて…彼女のこと迎えに来たのですが」
 「お代は頂いておりますので。大丈夫ですよ。
 お帰りの際にお申し付けください」

 そう言ってニッコリと笑ってお水をカップに一つ出してくれた後、扉の札をcloseにすると、自分は奥へと引っ込んだ。

 「なにしてんの、こんなところで」
 「んぁ?んー?」

 人が急いで来たというのに、ガチ酔いですか。

 「おさけ、呑んでた」

 うん、知ってる。

 「1人で?」
 「んー?あずまさんと、きれいなひとでねぇ。
 ふゆぐみにはいったらいいのにってぇ。おもってさぁ」

 俺の髪にそっと手を伸ばしてくる。
 穏やかすぎて、呆れてしまう。

 「いたるさんは何してるの」
 「迎えに来たんだよ」
 「うそだぁ」

 くすくすと、鈴が鳴るように笑うからさっきのことが嘘のように感じた。

 「いたるさんは、こないよ、」
 「…」
 「ゆめって、つごうがいいんだから」

 だけど、そうじゃないんでしょ。
 婚約者も結婚も、本当なんでしょ?

 「現実だよ」
 「ふふ、…でもいいんだぁ、いいの、もう
 およめさんになるんだよ、しろいふわふわきるの。
 ゆきくんにつくってもらいたかったなぁっ、」

 「…作ってもらえばいいじゃん」

 きっと似合うよな、芽李のウェディングドレス。
 そう思ってたら、眩しそうに彼女が微笑んで言う。

 「いたるさんたきしーどきてくれる?」

 芽李の隣にいることを許してくれるなら、いくらでも着るよ。

 「…えへへ、なんてね。
 ゆめでも、困らせちゃった」

 夢と思うなら、俺が今気持ちを伝えてもお前は困らないの?

 「芽李、さっきはごめん。
 俺のヤキモチ、だから、だから…」

 スルッと彼女の手が力尽きて、代わりに俺が彼女の髪を優しく一房もちあげる。

 「本当に届いてない?」

 その髪にキスをする俺は、やっぱりずるいんだ。
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