第19章 上匂
万里に送ってもらった住所に向かって走る。
頼むからここであっててくれ。
すれ違う大人たちはどこかお酒の匂いを漂わせて、秋の風はつめたかった。
荒々しくドアを開けて入れば、カウンターにうつ伏せている芽李がいた。
その横にちゃんと携帯も置いてある。
目の前のマスターに会釈をすれば、優しく微笑まれた。
「すみません、注文じゃなくて…彼女のこと迎えに来たのですが」
「お代は頂いておりますので。大丈夫ですよ。
お帰りの際にお申し付けください」
そう言ってニッコリと笑ってお水をカップに一つ出してくれた後、扉の札をcloseにすると、自分は奥へと引っ込んだ。
「なにしてんの、こんなところで」
「んぁ?んー?」
人が急いで来たというのに、ガチ酔いですか。
「おさけ、呑んでた」
うん、知ってる。
「1人で?」
「んー?あずまさんと、きれいなひとでねぇ。
ふゆぐみにはいったらいいのにってぇ。おもってさぁ」
俺の髪にそっと手を伸ばしてくる。
穏やかすぎて、呆れてしまう。
「いたるさんは何してるの」
「迎えに来たんだよ」
「うそだぁ」
くすくすと、鈴が鳴るように笑うからさっきのことが嘘のように感じた。
「いたるさんは、こないよ、」
「…」
「ゆめって、つごうがいいんだから」
だけど、そうじゃないんでしょ。
婚約者も結婚も、本当なんでしょ?
「現実だよ」
「ふふ、…でもいいんだぁ、いいの、もう
およめさんになるんだよ、しろいふわふわきるの。
ゆきくんにつくってもらいたかったなぁっ、」
「…作ってもらえばいいじゃん」
きっと似合うよな、芽李のウェディングドレス。
そう思ってたら、眩しそうに彼女が微笑んで言う。
「いたるさんたきしーどきてくれる?」
芽李の隣にいることを許してくれるなら、いくらでも着るよ。
「…えへへ、なんてね。
ゆめでも、困らせちゃった」
夢と思うなら、俺が今気持ちを伝えてもお前は困らないの?
「芽李、さっきはごめん。
俺のヤキモチ、だから、だから…」
スルッと彼女の手が力尽きて、代わりに俺が彼女の髪を優しく一房もちあげる。
「本当に届いてない?」
その髪にキスをする俺は、やっぱりずるいんだ。