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3月9日  【A3】

第15章 一葉


 「じゃあ、行こっか。咲」
 「うん」

 ぎこちなさを感じながらも、絡まった糸が解けていくような感覚。

 寮から少し歩いて、河川敷を行く。
 ユニフォームを着た少年たちが、キャッチボールをしている。

 「小学生くらいかな」

 呟いた私にうなづく咲。

 「あのくらいの咲、見たかったなぁ」
 「オレも、ねぇちゃんといたかった…です、」
 「さく?」
 「いや、なんか、…えっと」
 「うん?」
 「今更になって、なんかこう落ち着かないっていうか。
 こうやって姉弟に戻れて、やっと実感してるんだろうなって思ったらソワソワしてきちゃって」
 「そっか、…たしかに。なんか、わかるかも」

 咲の耳が少し赤く染まってる。

 「オレ、よくこの辺でセリフの練習とかしてて」
 「カンパニー入ってから?」
 「ううん、もう少し前から。前に言ったことなかったっけ、舞台俳優になりたかった理由」
 「小学校の時の、海賊の話のこと?」
 「そう、それから、…舞台に出て、有名になったら会えるかなって思って。…ねぇちゃんに。単純ですよね」

 足を止めた咲。

 秋風が吹いて、秋桜が揺れる。

 「思ってた通り、舞台に関わったらねぇちゃんに会えた」

 フワッと優しく笑った咲に、なんだかいろんな感情が押し寄せて、涙腺が緩む。

 「もっと早く挑戦すればよかったって、少しだけ後悔した」
 「うん、」
 「もう少し早く、オレの気持ち伝えればよかったって。
 ねぇちゃんのせいにしちゃったけど、ほんとはオレだって少し怖かった。
 カンパニーの玄関からねぇちゃんが飛び出してった時、引き止めればよかったってずっと思ってた。
 それから、自己紹介してくれた時、酒井って言わせる前に、ねぇちゃんでしょうって、言えばよかったって後悔してた。
 喧嘩した時、酷いこと言っちゃった時、全部酒井って言ったねぇちゃんのせいだって、自分に言い聞かせて、自分が傷つかないようにしてた…ごめんなさい」

 頭を下げる咲に、そんなことしなくていいと肩に手を伸ばす。

 「あと、あの日…ねぇちゃんが帰ってくるの待ってられなくてごめん。
 小さくても、ちゃんと考えればよかった。
 オレがいない方がって、どうしていっぱい愛情注いでくれてたねぇちゃんに思ったんだろうって、1人にさせたのは、オレも一緒だったのに」
 
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