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3月9日  【A3】

第12章 ※長州緋桜


 そして迎えた初日。

 「天馬君、」
 「なんだよ」
 「ここ、ボタン、ずれてるよ」

 正面から鉢合わせた、アリババに扮した天馬君。
 君にしてあげられること、きっと多分ない。

 「ほんとだ。…あぁ、そうだ。直してくれよ」
 「天馬君できるでしょ」
 「春組の奴らの支度は、手伝ったらしいじゃん」

 ニヤッと笑った天馬君は、昨日戻ってきてから随分と晴れやかな顔をしていた。

 …みんなのおかげかな。

 「天馬君ずるいよ、きみ」
 「…芽李さんこそ。願掛けだよ、オレのねぇちゃん…だろ?」
 「天馬君弟だったら、すっごく手がかかりそう」

 なんて茶化しつつ、持っていた資料を傍に挟み、ボタンに手をかける。

 「えー、ちょっとこれ最初から、掛け違えてんじゃん。」

 全く、と言いながら、掛け違えたボタンを直す。

 「腹筋バッキバキだね、天馬君」
 「仕上げてきたからな」
 「さすが、プロ」
 「…ドキドキしないのか?」

 って、流石に自分の弟よりも、下の子にドキドキはしないだろう。

 「うぶだね、天馬君。

 …よし、できたっ」
 「てーんま、何させてんの。俺の嫁に」

 そう言ってもたれ掛かってんのは、至さんだ。

 「至さん、嫁っていうのは、そもそも」
 「わかったわかった。綴に便乗して、電子辞書買ったんだよな。それで調べた意味解説しようとしてるのは、わかったから、年頃の男に気軽に触るのやめてもらっていい?至さんにしときなさい」
 「オレは、何を見せられてるんだ?」
 「至さんのことは、気にしなくていいよ。天馬君、初日気負いすぎないようにね」
 「…わかってる」

 ほんとは少しわかってた、ボタンを直してた時に、震えていた手に。
 緊張してることも。

 「天馬君、私天馬君に期待してないよ」
 「な?!芽李さん?いまから天馬本番だぞ?」

 慌てた至さんに代わって、黙っている天馬君は、私の言葉を待っているようで。

 「期待してないから、頑張らなくていい。でも、夏組結成した時からずっと天馬君たちのことみてたから、知ってる。
 期待なんてしなくても、天馬君のここにちゃんとアリババがいるから、わからなくなったら、ちゃんとアリババと向き合えばいいんだよ。
 月並みだけど、練習はうらぎらないよ。見失わなければ、1番の見方でいてくれる」
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