第12章 ※長州緋桜
そして迎えた初日。
「天馬君、」
「なんだよ」
「ここ、ボタン、ずれてるよ」
正面から鉢合わせた、アリババに扮した天馬君。
君にしてあげられること、きっと多分ない。
「ほんとだ。…あぁ、そうだ。直してくれよ」
「天馬君できるでしょ」
「春組の奴らの支度は、手伝ったらしいじゃん」
ニヤッと笑った天馬君は、昨日戻ってきてから随分と晴れやかな顔をしていた。
…みんなのおかげかな。
「天馬君ずるいよ、きみ」
「…芽李さんこそ。願掛けだよ、オレのねぇちゃん…だろ?」
「天馬君弟だったら、すっごく手がかかりそう」
なんて茶化しつつ、持っていた資料を傍に挟み、ボタンに手をかける。
「えー、ちょっとこれ最初から、掛け違えてんじゃん。」
全く、と言いながら、掛け違えたボタンを直す。
「腹筋バッキバキだね、天馬君」
「仕上げてきたからな」
「さすが、プロ」
「…ドキドキしないのか?」
って、流石に自分の弟よりも、下の子にドキドキはしないだろう。
「うぶだね、天馬君。
…よし、できたっ」
「てーんま、何させてんの。俺の嫁に」
そう言ってもたれ掛かってんのは、至さんだ。
「至さん、嫁っていうのは、そもそも」
「わかったわかった。綴に便乗して、電子辞書買ったんだよな。それで調べた意味解説しようとしてるのは、わかったから、年頃の男に気軽に触るのやめてもらっていい?至さんにしときなさい」
「オレは、何を見せられてるんだ?」
「至さんのことは、気にしなくていいよ。天馬君、初日気負いすぎないようにね」
「…わかってる」
ほんとは少しわかってた、ボタンを直してた時に、震えていた手に。
緊張してることも。
「天馬君、私天馬君に期待してないよ」
「な?!芽李さん?いまから天馬本番だぞ?」
慌てた至さんに代わって、黙っている天馬君は、私の言葉を待っているようで。
「期待してないから、頑張らなくていい。でも、夏組結成した時からずっと天馬君たちのことみてたから、知ってる。
期待なんてしなくても、天馬君のここにちゃんとアリババがいるから、わからなくなったら、ちゃんとアリババと向き合えばいいんだよ。
月並みだけど、練習はうらぎらないよ。見失わなければ、1番の見方でいてくれる」