第3章 支那実桜
「じゃあ、支配人今日もよろしくお願いします。」
時は進んであれから約半年。
変わったことといえば松川さんを"支配人"と呼ぶようになったことと、私がきたばかりの頃より少しずつ寮の中が片付いているくらいで。
「よろしくお願いします、芽李さん!」
今日も支配人は丸眼鏡をかけて深緑のスーツを着ている。
当て布の数少し増えてる?
なんて思いながら、
テンプレ化してきてる挨拶を交わして、いただきますと2人で手を合わせる。
朝食を口に運びながら、正面に座ってニコニコしている彼は、未だに料理の腕は上がらず尊敬できることといえば…
この寮で唯一ピカピカに磨いてある楽器の整備の腕とその演奏の技術力だったりする。
いつか、あの舞台の上で彼が楽器を演奏するなんてこともあるのかな…
否、この際だから提案してみる?
劇団員が揃うまでは彼に舞台に立ってもらうとか…
左京さんとの約束もまだ果たせていないし。
きっかけがなんであれ、まずこの劇団を立て直すことから…って、
「あ。」
「はい?」
「そういえば、前監督の立花さんへのオファーってどうなったんです?」
時が止まったと思うように、ピタッと動きが止まる。
「は!!…うぅ、すっかり忘れてました」
彼がうっかりしてるのは、一緒に過ごしてるうちにだいぶ分かってきた。
「あと半年くらいしかないですよね、松川さんと左京との約束の日まで」
と、少し強めに言わないとこの人には効かないと言うのもここで過ごすうちに気付いた点だ。
「そうでしたぁ…」
私は主にこの寮のことを、支配人は劇団に関することを2人で分担していこうと決めたのに…
私も口へと含んだものをコーヒーと共に咀嚼する。
「できないなら、言ってください。
私だって、支配人が言ってた満開の笑顔の花が咲く、劇場がみたいんです」
不貞腐れるように言ったのは態度が悪かったかも知れない。
「立花さんの住所は、分かるんですよね?」
「うぅー…」
「うぅー…って、」