第1章 寒桜
バスが終点に着くまで、彼の半生がいかに大変かを語られた私。
あまりにも可哀想で、何となく同情してしまう。
「お話しはわかりました」
きっかけは彼が、助けてほしいって言ったから。
…それから、少しの下心。
「でも条件があります」
「え?!そんな殺生な…お金はなくてですねぇ」
見ればわかる。
…こんなボロボロのスーツを着ていれば。
「私をしばらく泊めていただけませんか?」
日が傾き始めていて、
少しだけ野宿も覚悟していたし。
「寮のお片付けお手伝いしますし、実は田舎から出てきたもので行くところがな」
一宿一飯の恩義くらいなら返せるかなって思ったし。
「ほんとですかぁ?!ぜひ!きてください!!」
支配人と名乗ったその人が、
カンパニーの話をした時、
凄くキラキラと嬉しそうにいうから。
少しだけでも、
力になりたいって思った。
あとは…。
東京にあって、
支配人もいて、
こんなにたくさんの荷物があるって言うことは、
それなりに立派な劇場なはずで。
それなりに宣伝力も、知名度もあるはずで。
弟を探す糸口になればいいという、
打算的な考えも少しあった。
ー…失敗したかなと、思ったのはその日寮の中の惨状を見てしまったからだ。