第6章 丁子桜
仕事帰りだったようで、スーツのままで迎えに来てくれた彼は、私と待っていてくれたかずくんを家まで送ってくれた。
「一成、ありがとうね。」
「いいぇー♪メイメイが無事でよかったよ!
もうすぐ本番だもんね!稽古頑張っちゃってー♪
乗せてもらって俺の方こそありがとねん!」
「うん、ありがとう。」
「かずくんまたね、ほんとお騒がせしました」
車が見えなくなるまで律儀に見送ってくれたかずくんが、居なくなって静かになった車内で、先に口を開いたのは私。
「みんな怒ってる…?」
「心配はしてたから、寮に着くまで覚悟しといたほうがいいかも。雄三さんとか、幸にも連絡してたみたいだし。」
「そんなに心配しなくても私大人なのに。」
「大人はちゃんと連絡するでしょ。まぁ、話聞く限りは面白かったけど。監督さんの仇取ったんでしょ?」
「仇って…」
窓から見える景色はもうすっかり暗くなっていて、当たり前かさっきまで夕方だったんだからと考える。
「至さんも心配かけてごめんなさい」
「おかげで仕事手につかなかったから、定時に上がってきたよ。」
「え」
「嘘。今日は早く終わったんだ。ドライブしたかったし、ちょうどよかった。」
「それこそ嘘だ」
「まぁ、早く上がれたのは本当だから騙されてよ。無事帰ってきてくれて良かった。」
「…ありがと」
信号が赤になって車が止まる。
あと2つ交差点を過ぎたらMANKAI寮だ。
「芽李も疲れたんじゃない?相当歩いたでしょ。」
「疲れてはないんだけど、ぐるぐるし過ぎて迷宮にでも迷い込んだかと思った。」
「はは。迷子になりがちだよね、芽李は。」
「そんなことないよ、今回はたまたま」
「まぁ、また見つけられて良かった。今度は白馬もあったしね。」
「白馬?」
「うん、この車が白馬の代わり。さしずめ俺は王子なのでしたー。ってね。」
「ふ、103城のね。」
「そそ、あの部屋は俺が作りあげた完璧な城。また片付けてね」
戯けるくせに、信号が青になった瞬間に真面目な顔になる至さんは確かにどこかの王子って言われてもうなづけてしまう。
こうやって、迎えにきてくれるところも。
「まぁ、迷子になっても大丈夫だよ。俺が見つけて迎えにいくから。心配はするけど」