第5章 *LIB ナイトメア・ビフォア・クリスマス*
ふと彼の胸元に少しだけ顔を出すように入っている丁寧に畳まれた黒いハンカチが目にとまった。装飾の刺繍だろうか、白く丸い模様が大きく施されてい色も何も分からないはずなのに、一目でそれが満月だと頭によぎった
『月..のハンカチ?』
大事そうに仕舞われたそのハンカチと、こちらを見つめる青年の顔を見つめていると、次第にジワジワと視界が揺れ始め、目元が熱くなってきていることに気がつく
そして瞬き1つしたその時、頬に滑る熱いものがポタポタと石畳に黒い点を落としていった
ユウ『!!ど、どどどどどうしたの!?』
グリム『ふなっ!オメー、いきなりなに泣いてんだゾ?』
『あれ..なんで、だろ..』
ユウ『どこか痛い?それとも気分悪い?もしかして、嫌なこと思い出したりした?』
『...ぐすっ..ううん。ちが、ちがうの..っ..ぅぅっ、やなことじゃないのに、なんか..なみだとまんない..っ』
心臓をギューッと掴まれたような感覚に涙が止まらず、その理由は本人もよく分かっていなかった。ただひたすらに、肖像画の青年が今いないことへの深い悲しみと、同時に感じる酷く愛おしい感情があるだけだった
ユウ『そ、そうなの?でもどうして..あっ、手で擦っちゃだめでしょ。ええっと、何かあったっけ...』
『ぐすっ..だい、じょうぶ。ハンカチ、持ってるから..』
隣でワタワタするユウを落ち着かせ、自身のポケットからハンカチを取り出すが、そこに握られていたのはいつも愛用しているはずのものではなかった
『あれ..?私、こんなハンカチ持ってたっけ..
カボ、チャ..?』
いつもフワフワした生地で愛らしい柄のものを好んでいるはずが、手にしたそれは背伸びをしたような上質な真っ黒の生地に、愉快そうに笑うジャック・オ・ランタンの刺繍が施されていた