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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第11章 お代は要りません《後編》◉相澤消太


お昼を知らせるチャイムの音、
ハッと我に返った私は、自身がスクリーンセーバーを凝視していることにようやく気がついた

部屋に響く聞き慣れたメロディが鳴り終わるや否や、校舎中に生徒たちのにぎやかな声が溢れる


次々と事務室を出ていく同僚たちを眺めながら、手元に数時間置いたままの書類に目を落とすと
「1年A組」と書かれたすぐ下、真っ白な捺印欄を見るだけで、胸の音がうるさくて涙が出そうになった







「・・あなたに触れたいと思っていました」

暗闇で囁かれた吐息混じりのその声を思い出すたび、私は勘違いしそうになる自身を何度も何度も抑え込んでいる


憧れのヒーローとの急接近、それどころか何と抱かれてしまったのである
ファンに手を出すなんて全くもって解釈違いではあるのだけれど、実際に手を出された幸せと言ったら、もう!


今朝廊下で迷惑そうに返された一万円札、胸ポケットをのぞき込んで唇を噛み締める
絶対に彼の迷惑にならないように、そして一度抱かれたからといって決して勘違いをしないように

お互いいい歳の大人なのだから、
何十回も唱えてきたその言葉をまた心の中で唱えると、私は静かに椅子から立ち上がった


お昼休み、イレイザーは仮眠室で過ごしていることが多い
顔を合わせると取り繕ったすべてが崩れてしまいそうで、昼食時のがらんとした職員室、明るい陽の差し込むその部屋にまるで空き巣のように足を忍ばせる


音を立てないように閉めた引き戸から手を離すと、握りしめた書類を置こうと彼のデスクを目指して


奥側の通路に入ろうとした途端、突然視界に入って来たのは床に転がる黄色い寝袋

気づいた時には既に遅し、足を取られバランスを崩した私は見事に柔らかい感触の上へと着地した




「・・へぇ、思ってたより大胆だな」


目の前には鮮やかな黄色、くつくつと笑いを堪えた気怠げな声が頭の上から降ってくる


「わわわわ、イ、イレイザーヘッド先生」


か、仮眠室では・・!?狼狽える私を横目に彼はジジジ、とファスナーを下ろすと床に投げ出された書類を一瞥した


「そりゃ裏ぐらいかくよ」

午前中一度も来ないなんて冷たいね、チラリとこちらを見た彼は書類を纏めるとポケットから取り出した印鑑を捺印欄に押し付けて

差し出されたその束を受け取ると、乾燥している指が私の甲をそっと撫でた
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