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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第9章 ふわふわなんかさせない◉相澤消太



「き、急にそんな、」

「急じゃない」


こんなに寒いのに、きっと私の顔は湯気が出そうなほど火照っているに違いない
じっとこちらを見つめる相澤くんの視線は、先ほどまでの賑やかな時間を責めているようでもあり、そんな私を甘やかしているようでもある


白く舞う雪は先ほどよりも少なくなって、積もることは無さそうだなぁなんてあえて他のことを考えてみたりして
ゆらゆらと左右に揺れながら落ちてくるそれは今の私のように不安定で、心許なくて、随分冷たくなってきた唇を噛み締めた








「・・ショータってさ、ああいうとこあるよな」


「言いたいコトはよォーーくわかるぜ?」


ふと後ろの方から聞こえたひそひそ声、咄嗟に振り返ろうとした私を制するようにポケットの中の指がまた甘く絡められる


「・・もう少しだけ」

そう言って私の腕を引き寄せた相澤くんは無表情のまま前を向いて、白い息を吐いた




「抜け駆けでプレゼントとか渡してたりして」

「さすがにそりゃ無ェだろォ!?」





空から降りてくる白は、忙しない私の心と対照的にゆっくり、ゆっくりと、気ままに舞うのを楽しんでいるようだ






「・・さっきの返事、聞かせてくれないの」

「えっ、あの、少し時間を」


「待てない」


眉間に皺を寄せた彼の表情とは裏腹に、ポケットの中では彼の親指が愛おしそうに私の人差し指を撫でている
甘い手付きに頭がくらくらして、そんな私の気持ちをきっと見透かしている相澤くんは私の手のひらをつ、となぞった


「〜〜〜〜!」


「・・本当は、返事はいつでもいいって言いたいんだけど」


そしたらまたあいつらとイチャつくだろ、そう言って呆れたように溢した溜息は暗い空へと消えて
癖のある髪に舞い落ちた白い粒は儚く溶けると、黒を冷たく湿らせていく



「寒いから・・早く」


「そ、そんなこと言われても・・っ」

「好きでもない奴と手繋ぐの」




離したくないと思ってるのは俺だけか、なんてにやりと笑った相澤くんは確実に私の動揺を見抜いている


芽生えたばかりの恋心には居心地が悪すぎる彼の視線、石鹸の香りのするマフラーに顔を埋め目を閉じると
ふわふわと呑気に舞う雪を恨めしく思いながら、私はその大きな手をぎゅっと握り返した
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