第3章 口溶けに恋して◉共通ルート
温めた生クリームと合わせたそれが
ボウルの中で少しずつ溶ける
口溶けが滑らかになるように、
クリーム状になるまでしっかりと混ぜて
—————どうかこの想いが、伝わりますように
「・・せめて受け取ってくれたらいいのに、」
数分前に行き場を失ったそれが、手の上で途方に暮れる
とびきりのお洒落をした女の子みたいに可愛い色に身を包んで
憧れの彼の手でその包みが開かれるのをまだ健気に待っているみたいだ
“気持ちに応えられないから、受け取れない”
本当にごめん、そう申し訳無さそうに頭を下げて
去っていく先輩の後ろ姿を思い出すとじわりと涙が浮かんだ
「・・彼女が、居るんだって、」
消えそうな声と共に吐き出した白い溜息が
二月の寒空に溶ける
ぐすん、と鼻をすすった自分に「これは寒いからだよ」と言い訳を落とした
呆然としたまま上履きに履き替え、昼休みの喧騒の中をとぼとぼと歩いて
「どうしよう、これ」
いっそのこと捨てようとしたけれど
気持ちを込めて作ったそれに愛着が湧いて
彼に合いそうだと選んだ箱も袋も気に入っていた
でも、自分で食べるなんて悲しすぎる、
「・・やっぱり、捨てようかな」
廊下に置かれたゴミ箱の前、
ぼんやりと佇んでいる私に背後から突然声が掛けられた
「それ、誰に渡すの」
「ひっ、!」
恐る恐る背後を振り返ると相澤くんがじっと私を見つめている
「相澤くん・・!驚かせないでよ」
「捨てるのか」
「あ、うん、まだ、迷って、る・・」
そう答えただけで、まるで全てを見抜いたかのような彼の視線
気まずくて目を伏せると、その口元に微かな笑みが浮かんだ
「・・俺でよければ、腹減ってるけど」
「え?」
彼の言わんとしている事が分かった途端、気恥ずかしさと虚しさと有り難さが入り混じって言葉に詰まる
「捨てるくらいなら」
「え、あ、本当・・?」
やっとのことで絞り出した私の声に彼がゆっくりと頷いた次の瞬間、全てを掻き消すような大きな声が廊下に響いた