第2章 これからもっと好きになる◉轟焦凍
「俺は1年A組の轟焦凍、薬師に会いたくて
毎日傷を作っては保健室に通ってた
お前のことが好きだ、よろしくな」
これからはめぐって呼ぶから、お前も焦凍って呼んでくれ
「は・・、え・・?」
ベッドの上での唐突な自己紹介に思わず口が開いてしまう
「ちょっと待って、毎日傷を作って、って」
「ああ、結構大変だった」
それなりに痛ぇしな、あっけらかんととんでもない事を口にしたその顔はどこまでも真剣で
驚きで声も出ない私を楽しそうに眺めると
優しく唇を重ねた
「その甲斐はあった」
「なんか色々、すごいことはわかりました・・」
これで一つ目はクリアだな、
嬉しそうにそう呟いた彼がそそくさとベッドから降り私に手を差し出す
「好きな食べ物は冷たい方の蕎麦、
今から一緒に蕎麦食いに行かねぇか」
「お蕎麦・・?うん、いいよ・・?」
「デートだな」
「デート・・」
「その後は俺の部屋、お互いのことも知ったし
門限までさっきの続きができるだろ」
そん時は上も下も全部脱がすつもりだ、
そう満足気に言い終えて、乱れた私の髪を整えた
「遅くなっちまう、急ぐぞ」
「待って、ふふ!焦凍って・・、面白いね、」
「そうか・・?言われたことねえけど」
始まったばかりの恋が走り出す
保健室から出るとオレンジの夕陽が廊下を照らして
彼の髪に反射したそれがキラキラと光った
振り回される予感はすでに確信へと近づいて
それでも繋いだ手をぎゅっと握りしめると胸が躍る
これからもっと、好きになる
来週からは救急箱を持って来よう、
包帯の巻かれた腕を大事そうに眺める彼が愛おしいから
小さな傷は全部、私が治してあげられるように
「わ、和室・・!!?」
「実家が日本家屋だからよ、フローリングは
落ち着かねえ」
部屋の入り口で立ち尽くす私を他所に
せかせかと動いた彼がこちらを振り返る
「とりあえず布団は敷いたぞ」
ご丁寧に掛け布団をめくって待つその姿に
ちゃんと門限までに帰れるかな、と苦笑が漏れた
「こういう時は、脱いでから布団に入るのか?」
「し、知らないよ・・!」
目紛しい展開、私は必死に心を落ち着かせようと
畳の香りを胸いっぱいに吸い込んだ