第23章 鳥かごは無色透明《前編》 ◉鷹見啓悟※
はぁ、特大の溜息が部屋の中に響いて、目の前に座る相澤先生が眼薬をさす
打合せ用の会議室、背中に一筋の汗が流れるのを感じて、私は居住いを正した
「あのな、取って食ったりしないよ」
「わわわかってます、すみません・・」
手のひらにじわりと汗が滲む、担任と副担任、尊敬している同僚、露骨に避けたいわけもなく、かと言って今までのように気軽に戯れ合う日々には戻れない気がして
「言わない方がよかったか」
「な、何をですか、さ、打合せしましょう!」
「・・そっちで行くのか、先が思いやられるな」
呆れたように溢れた彼の笑みに酷く安心している自分がいる
着任時から守り導いてくれたこの人の幸せを誰より願っていた自分が、
もし啓悟くんと出会っていなければ、そんな風に一瞬でも思ってしまった自身への嫌悪が、
「深く考えなくていい」
「・・っ」
「そんな風に悩まれると、モノにしたくなる」
人のもん奪う趣味は無いよ、何度目かわからない溜息、でも先ほどより少しだけ温度の感じられるそれに強張っていた肩の力が僅かに抜けていく
「ひとつだけ、あいつに伝えてくれ」
嫌悪の滲んだ声色と共に頭に置かれた相澤先生の大きな手が、くしゃりと私の髪を乱した
「、わ・・っ」
「嫌でも目にする、あの手の記事にはうんざりだと」
この際お灸を据えてやるといい、思い切り顔を顰めた彼が書類に視線を落とすと突然開いたドア、
初めて見る小柄な女性が顔を覗かせた
「お話し中に、申し訳ありません」
「大丈夫ですよ、どうかされました?」
「本日よりクラス担当の事務員として着任しましたのでご挨拶を、」
先日までの方はいつの間に辞められたのだろうか、愛想良く微笑む彼女がじっと相澤先生を見つめている
訝しげに視線を向けた彼はぺこりと軽く会釈をした
「薬師先生、後ほどお時間よろしいでしょうか?」
ご確認いただきたい作業がありまして、申し訳なさそうに頭を下げた彼女に私は予定を伝える
音を出さず静かに閉められたドア、私は意識的に小さな声を出した
「急に担当が代わったんですね、」
「よくもまぁ、また面倒なことを・・」
気怠げに捕縛布を緩めた相澤先生がソファにぐったりと項垂れて、私は目を丸くする
「もしかして、お知り合いですか、?」
「その方がマシだよ」