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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第23章 鳥かごは無色透明《前編》 ◉鷹見啓悟※



保健室の窓から吹き込んだ風がパラパラと日誌のページを捲る、まだ何も書いていないそれには淡くて細い線だけが引かれて

朝から何も口にしていない私のデスクには、相澤先生が去り際に置いて行ったゼリー飲料
いつ貰ったかも覚えていないそれが、今日はやけに視界に飛び込んでくる




「・・なんか、ありました?」

無意識にボタンを押して応答したらしい着信、耳元でいきなり響いたその声に私は飛び上がるほど驚いた


「っ、け、けい・・!」

「動揺しすぎでしょ、状況最悪ってとこですね」


「なんで、でん、わ」

「へー、それ聞きます?」

まんまと頭真っ白にされよって、唸るように怒りを滲ませたその声がぼうっとしていた心を少しずつ現実へと引き戻していく


「ちゃんと昼食べましたか」

何でもいいから口に入れてください、そう言ってやれやれと吐かれた溜息、背筋を伸ばした私は深呼吸をして目の前のページを戻した


「ちょうどゼリーなら、・・っ、あ、」

「今すぐ捨てないと俺何するか分かりませんよ」

しっかりしてください、思い切り圧を感じる声色に少しだけ揺らいだ視界、声だけじゃ足りなくて、抱きしめて叱ってほしくて、そんな自分が情けなくて、唇を噛み締める


「わた、し、どうしたら」


「・・俺への気持ちは、そんなもんですか」

「、ちが・・っ」

「どんなに不安か、貴女には分からないでしょうね」

気が狂いそうです、貴女を攫うための大義名分も無い、声の中に微かに感じる震えに胸がぎゅうっと掴まれて上手く息が出来なくなる


「啓悟、くん」

「愛してます、死ぬほど」

誇張じゃないですよ、張り詰めた空気に似合わない柔らかな陽の光、窓際の花瓶には彼が訪れる度に飾られる鮮やかな花々が瑞々しく咲いている


「・・ごめんなさい、わたし、」

「いいから早く」


「っ、愛してる、啓悟くんだけだよ」

帰ったら必ず連絡くださいよ、低く呟いたその声の向こうで会議のアナウンスが響いている
共有している予定アプリには分刻みのスケジュールが犇めいて、情けなくて涙が出そうだ


「・・お昼、食べたかな」

聞かなきゃいけないのは私の方なのに、数秒経つと無情にも暗くなった画面をぎゅっと握り締める
離れている時間の長さが初めて恨めしく感じられて、目線を上げた先、鏡に映った自身の長い髪を私は片方に寄せた
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