第22章 あなたの青に触れさせて《後編》◉鷹見啓悟※
「高所、恐怖症、」
「ああ、”極度の”な」
嫌悪感を隠さない音が電話越しで俺の鼓膜を揺らす、低く怒りを含んだ声はだから行かせたくなかったんだと、そう伝えている
「勘違いするなよ、その言葉が連想させる軽いもんじゃねえぞ」
幼少期の事故の記憶に起因したトラウマだよ、恐怖感からのフラッシュバック、過呼吸や酸欠、時には失神も引き起こす
「なんでそんな大事なことを・・!」
「知られたくなかったんじゃないのか、お前に」
静かにスライドさせた引き戸、点滴に繋がれた細い腕が酷く痛々しい
俺の手にあるスマホをちらりと見ると、全てを悟ったように彼女は肩を縮こめた
「俺、怒ってますよ」
「うん、ごめんなさい」
ずかずかと乱暴に歩み寄り腰を下ろしたベッド、細い肩を思い切り抱き寄せる
「・・めちゃくちゃ怖かったですマジで」
「啓悟くん、ごめんね?」
「それは狡すぎるでしょ」
沸々と湧き上がる自身への怒り、
彼女の事を何も知らない自分、そして自分の世界は彼女のそれより素晴らしいと独り善がりに押し付けた傲慢さに吐き気がする
空高く攫ってしまいたいなんて、貴女には迷惑どころか暴力でしかなかったのに
「なんでそんな無理を、」
「・・啓悟くんも、会いに来てくれたから」
順応できない私みたいな女に好かれるのは迷惑かもしれない、だって私は貴方の聖域に溶け込むことのできない異物だから、
でも、触れてみたかった、
どんなに焦がれても、決して辿り着けない貴方の世界に
「私も、会いに行きたかったの」
ぽたりと落ちた一粒、白いシーツがじわりと滲んで淡い色に変わる
雫の溜まる目尻に親指で触れると、鼻の奥がつんとした
「なんすかそれ、一生に一度の大告白じゃないですか」
「ふふ、そうかなぁ」
彼女が照れ臭そうに瞳を細めると星屑よりも綺麗な滴がまた流れる
じわりと身体の中が温かくなると柄にも無く潤んだ視界、天井を睨んで深呼吸をした
「俺だけ好きなんだと思ってました」
「確かに、私はまだなりかけ・・なのかな」
「その愛情深さがデフォ?やばいね」
片眉を吊り上げ呆れた声を上げると彼女が目を伏せて笑って、掬い上げたその指先に俺は口付けを落とした