第22章 あなたの青に触れさせて《後編》◉鷹見啓悟※
「えー・・あのー・・、そんなに緊張しなくても」
「すみません、初めて来たもので、」
そう言いながら、自分の声が上擦っていくのが分かる
縦2列に並んだ丸い形、一番右上の二桁がオレンジ色に光っている
背中に感じる外の景色を決して視界に入れないようにと、私はもらったばかりの名刺に書かれた「目良善見」の四文字とその背中に意識を集中させた
「あー・・着きました、会長がお待ちです、そりゃーもう首を長くしてます」
最上階到着を告げるアナウンス、重く開いた扉の先にじわりと汗が滲む
全面ガラス張りのフロア、一番奥に配置されたデスクで立ち上がった彼の後ろに真っ青の背景が見えて足元が竦んだ
「薬師さん!会いたかった、!」
「ふふ、お世話になります、鷹見会長」
「あ、それ禁止ね」
私はいつも通りに振舞えているだろうか、気を抜くと震えてしまいそうになる唇を誤魔化すように静かに深呼吸をする
午前は病院で対象者のカウンセリング、そしてその情報と記録を公安へ持ち帰るのが私に与えられた数日間の使命だ
「公安専属、却下されちゃいましたよ」
てかイレイザーのクラスなんすね、副担任にするとか職権濫用も甚だしいなあの人、
彼の口からでたその名前に、心細さを感じたのはきっと間違いないと思う
くれぐれも無理をするなよ、そう言った相澤先生の指が契約書末尾の署名欄をトントンと指して
公安委員会の署名印に記載された建物名は確か昨年都内一の高さを誇ると報道されていた
「リモートでも何でも、行かなくていいように調整するか」
「数日だけなので・・、頑張ってみます」
「へえ、何のために」
全てを見透かすような視線、慌てて目を逸らすと隣の椅子に相澤先生が腰を下ろして
居心地の悪い優しい沈黙に心臓の音が早くなっていく
「・・知りたいと、思い始めているから、でしょうか」
「はぁ、聞かなきゃよかったよ」
立ち上がりくしゃりと私の髪を撫でた大きな手、呆れたように溜息を吐いた相澤先生が静かに足を踏み出して
———会いに行ってるんです、貴女に
私の世界に突然現れた琥珀色の瞳に、光の中で時折見せる仄暗い苦しみに
「ま、きつくなったら帰ってこい」
「ふふ、ありがとうございます」
もし出逢っていなければ、
私はきっとこの人に恋をしていたのだろう
