第22章 あなたの青に触れさせて《後編》◉鷹見啓悟※
「っとまぁ、先に仕事の話をね」
万が一に備えありったけの詳細資料を掻き集めてきたことが功を奏した
いや万が一どころか案の定と言ったところか、渉外担当として登場したイレイザーヘッドに真っ直ぐ視線を送る
どんな説得にも首を縦に振るつもりなど端から無いのだろう、いや大人気なさすぎでしょ、幾つなんすかアンタ
「薬師くん、君の意見は」
さすが個性ハイスペック、決まる気配が無いと一瞬で読んだ根津校長は開始2分で彼女本人を呼び出した
「君が行きたいと言うなら、もちろんカバーするのさ!」
目良さん助かりましたよ、出せる情報スレスレ、入念に編集と校閲を重ねた貴方の資料のおかげで校長は彼女の派遣に前向きだ
「・・特殊なケースだったと、思います」
白い手が次に触れた紙の束、へえ、彼女が担当した過去事例の資料まで付けてくれたんすね、流石だ
「お許しいただけるのであれば、お力になれればと思いますが、」
副担任をしているクラスにご迷惑を、悩むように数秒視線を落とした彼女がちらりと隣のイレイザーを見た
「・・それについては問題ない、心配しなくていい」
ふっと諦めたように肩の力を抜いた黒色、溜息にも似た声に俺は笑いを噛み殺す
ありがとうございます、嬉しそうに頭を下げた彼女を見つめる視線はこんなにも雄弁なのにね、お察ししますよ
すっかり馴染んだように見える右眼と右脚、用は済んだとばかりに部屋を出たその後ろ姿を追いかける
「相澤センセ〜」
「・・・」
華麗なる無視でスタスタと進んでいく背中、
声を掛けても立ち止まる気配は全く無くて俺は思わず吹き出す
長い廊下を駆けると、映った窓ガラスに自身には縁の無い青が見えた気がした
「第一線を退いた者同士、いい加減仲良くしましょうよ」
「白々しいな」
「そっすね、やめましょ」
カッコつけて送り出したこと後悔させますよ、長身を見上げて放った宣戦布告、流れ始めた校内放送に混じって嫌悪の籠った溜息が降ってきた
「もうしてるよ」
なんそれカッコよか、面食らって思わず見開いた目に温度のない視線が刺さる
「・・案外好きかもしれん」
「俺は嫌いだ、さっさと帰れ」
これ見よがしに動かされた視線の先、灰色をしたスピーカーからは下校を促すアナウンスが繰り返し流れていた