第21章 あなたの青に触れさせて《前編》◉鷹見啓悟
「よかったらお一つどうぞ、」
可愛いでしょう、微笑んだ彼女の手のひらには猫が描かれたパッケージ
それが飴玉だと認識するよりも早く口から言葉がこぼれ落ちる
「薬師さんって猫派なんですか」
「あ、これですか?」
今朝相澤先生がくれたんですよ、予想通りの言葉に予想通り顳顬が反応するのを隠すように俺はサイドミラーへ顔を向ける
「・・仲良いんですね、イレイザーと」
誰にでも懐くような人じゃないでしょあの人、嫌味のように加えたひと言、言った傍から自分の小ささが嫌になる
誤魔化すように伸ばした指先、申し訳程度に流れ始めた音楽が心の中の雑音を消してくれることを願った
「・・絶対言うなって言われたんですけどね、」
小さく呟いた彼女が悪戯っ子のような笑みを溢して目を伏せると、星屑を思わせる瞼がきらりと光る
「保健室の裏口に何匹か、猫ちゃんが集まる時があるらしいんです」
私は会えたことないんですけど、大体月一くらいかなぁ、なんて
俺が雄英を訪れる日に毎回ぴったり合わせて
保健室裏に野良猫が集まるワケですね、なるほど
大したマーキングだ、てかあの人幾つなんだ、溢れ出る嫌味を口の中に逃すと不味い飴玉の味が喉に流れた
「猫もいいけど、鳥も可愛いですよ」
空飛べるし、口から飛び出た幼稚な返しに我ながら呆れる
これ以上ないほど狭い空間で貴女と二人きりなんで、調子が出ないのは大目に見て下さい、
心の中では饒舌に流れ続ける言い訳、情けなさと苛立たしさを隠すようにハンドルを持つ手に力を込めた
「なんか変な事言いましたね、スミマセン」
「ふふ、飛べなくても可愛いですよ」
実はお風呂にアヒル浮かべてるんです、とびきりの秘密を明かすようにひそひそと耳元に響いた小さな声に俺は大きく吹き出した
「敵わないなぁホント」
「内緒ですよ?」
すごく癒されるんですから、前を見たまま微笑んだその横顔に思わず小さな溜息が漏れて、湯船に浮かぶ世界一羨ましい仲間に想いを馳せた