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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第19章 STUCK ON YOU◉轟焦凍※



透明のフィルムに巻かれたピンク色の花、
ひとり一輪ずつ渡されたそれと深緑の筒を落とさないように持ち直すと、少し前を歩く友人が振り返って笑った


「ぜんぜん実感湧かないね〜!」

すぐまた連絡するから!、そう言って笑った彼女に手を振る
寂しくないなんて言ったら嘘になるけど、築いてきた絆はこれからも続いていく、きっと大丈夫


靴を履き下駄箱を出るとふわりと吹いた春の風、気持ちのいい青い空に桜の花びらがひらひらと舞っている

ポケットに伝わった振動音に画面を開いてみれば、そこには両親からのメッセージ
今日の式典ために一時帰国した二人は今、空港へ向かうタクシーの中のようだ


「もう、わざわざ帰って来なくてもいいのに、」

苦笑とともに呟いた言葉が賑やかな声に掻き消されると不意に掴まれた手、振り返ったそこには二色の髪が息切れの音に揺れていた


「っはぁ・・っ、も、もう帰るのか」

「わ、すごい格好、だね・・!」

晴れの日とは思えないよれよれの制服、ボタンどころか色んな物が無くなっている気がする
そんな彼の背後には何とも言えない後輩女子たちの視線、思わずたじろいだ私を察して彼が静かに言葉を放った


「悪いが・・、二人にしてくれねぇか」

多少の圧を滲ませたそれに女の子たちから小さな悲鳴が漏れて、じりじりと後ずさった彼女たちを見て小さな溜息を溢した轟くんが私の手首を掴んで歩き出す


「はぁ・・、ごめん」

「もう、なんで謝るの、おつかれさま」

人気者は大変だね、笑って見上げると複雑そうな彼の目が私を軽く睨んで
「妬いたりしねぇのか」なんて不機嫌そうに発された声に私は思わず笑いを堪えた


「今のうちに慣れておかないとね」

轟くんはこれからもっと人気者になるから、目を伏せて呟くとぎゅっと握る彼の指先に力が入って、それだけで私は幸せになった


当たり前のように辿り着いたハイツアライアンス、大きく掲げられた「3-C」の文字を見るのも残り数日だ
両親ともに遠方にいる私は、全寮制が解除されてもここに残ることを選択していた

慣れた手付きでエレベーターのボタンを押した彼が私の手を引き部屋へと歩みを進める
これも今日で最後かな、そう思うと鼻の奥がつんとして

バタンと音を立ててドアが閉まると背中に彼の温度を感じてじわりと熱くなる頬、どきどきと煩い胸の音が思考を鈍らせていく
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