第22章 手当て
『義経様は怪我をしてるんですよっ!?』
「やかましい女だ」
羽虫でも見るような眼差しを向けられ、
(っ───)
次の瞬間、何の躊躇いもなく白刃を
突きつけれた。
「大人しくせねば、始末してくれるぞ」
(こいつやっぱやばいって!)
『ちょ、やめ……』
「───よそ見をしている暇があるのか、
鞍馬」
『義経様!』
いつの間にか私たちの間に割って入った
義経様が、鞍馬の刀を弾いた。
「悪くない動きだ」
鞍馬は刀の柄を握り直し、楽しげに
口角を上げる。
私を背に庇い、義経様が鞍馬に刀先を
突きつけた。
「鞍馬、お前の相手は俺だろう
に構うな」
油断なく刀を構えたまま、義経様が
こちらを振り返る。
「大丈夫か、」
『は、はい』
(助けてくださった……)
へたり込みそうになった足をぐっと耐えた。
「妙な時に来てしまったな
けれど、心配はいらない
あなたのことは俺が守る」
真摯な声色に、こんな時なのに思わず、
どきりとするけれど……
『待ってください!』
一歩踏み出そうとする義経様の裾を、
慌てて掴む。
「?」
「小娘、戦いに水を差すな」
義経様からは不思議そうな目を、
鞍馬からは鬱陶しそうな目を向けられた。
『そうは言われてもね……
二人はどうしてこんなところで
斬りあってるの?
義経様は怪我をしてるのに……』
「だから安静にして稽古をしていた
のだけれど……」
『稽古!?今のが?』
(だって、あんなに激しく斬り結んでたのに…
いや、そもそも安静に稽古って……)
ぽかんとする私に、義経様が説明してくれる。
「子供の頃、稽古相手になってほしいと
鞍馬に頼み込み、以来、度々稽古を
つけてもらっていた」
『子供の頃から…ですか?』
「再開して契りを交わした後も、
時々刀を合わせてやっている
こいつの相手は、退屈しのぎに
丁度いいからな」
(退屈しのぎって…)
『でも、稽古って言うならどうして部屋で?
今にも刀が天井にぶつかりそうだったし、
危険すぎますよ』
「あやかしである鞍馬が退屈しのぎの場所を
選ばないのはいつもの事だ」