第21章 人質
(名残惜しいけど、そろそろ行かないと)
「俺が恋しくなって泣くんじゃないぞ?
涙をぬぐってやれないからな」
『もう、玉藻こそ、
私がいないからって寂しがらないでね?』
「言うようになったな」
「くれぐれも気をつけなさい
他意はありませんが、
あなたの代わりはいませんから」
『はい。
景時さんも、決して無理はしないで
くださいね』
(仕事で書庫にこもった景時さんが
本を山積みにしてたから頑張って片付けたけど
帰ってくる頃には元通りだろうなあ)
「よくわかってるなあ
景時は放っておくと仕事ばかり
しているからね」
『仕事のお手伝いをしてたから、
その辺は何となく』
盛長さんと顔を合わせ、明るく笑う
(ただの怖い人じゃなくて、
景時さんも信念を持って幕府の為に
動いているんだ)
「生意気ですね。
帰ってきたら仕事の量を増やしますから
覚悟しておくことです」
『…心しておきます!』
みんなの口元にいつの間にか
笑顔が浮かんでいた
「。
再会する日を楽しみにしているよ」
「そんなに遠い日じゃないはずだけど、
まぁ…頑張って」
(っ)
『皆さん、本当にありがとうございます』
(ここに来てから私少し変わった気がする)
寂しさをこらえて挨拶をする私を見て、
頼朝様が最後に口を開いた。
「せいぜい気合い入れていけよ、
お前は幕府の一員だ
ぴーぴー泣いて情けねえ面を
反乱軍の奴らに見られるんじゃねえぞ」
(一員、か
短い間しか幕府で過ごしてないのに…
いつの間にか私は、こんなにこの人達を
信頼するようになってたんだな
みんなが帰っててくれる限り、
私は大丈夫だって思える)
姿勢を正し、もう一度、心からの笑みをこぼす
『はいっ、行ってきます!』
もらったたくさんの言葉を力に変えて、
私は一歩踏み出した。
そして、数日後───
(っ、さすがに緊張する…)
平泉に到着してすぐ義経様のもとへ案内された
広間に入った瞬間、
空気が張り詰めるのを感じる
「来たか」
(義経様…)
まず目に入ったのは、
上座に腰を下ろしている義経様だった
義経様の傍らには与一さんと鞍馬がいて、
他の家臣も数十人ほど詰めている。