第21章 人質
「…冗談だ」
「まあまあ弁慶。
そのへんにしときなさいよ」
そこに緩い声が割って入った
「俺たちの主君がふらりとどこかに行ってく
のは今に始まったことじゃないっしょ」
「与一……盗み聞きしてんじゃねえよ」
「近くを通ったら、お前の声が
聞こえたんだよ」
「心配する気持ちも分かりますけどね?
そこはほれ、義経様をもちっと信用しろよ
って話だ」
「言われなくても、義経様のことは
信用してる」
「けど、万が一ってことがあったら
どうするんだよ」
「その万が一のないのがうちの主君なんだよ
こうして無事に帰ってきたことだしな」
「……………」
納得がいかないのか、弁慶は無言で
与一を睨んだ
気にすることなく、与一はへらりと
義経に笑いかける
「羽を伸ばせました?義経様」
「ああ、久しぶりの京は祭りで賑わっていた」
「お、良かったですね」
思いを馳せるように目を細める義経に、
弁慶は深いため息を吐く
「───今回の件については
もう何も言いません
ですが、今度は絶対に声をかけて
くださいね!」
「………ああ」
「なんですか今の間は!?」
「気のせいだ」
「いや、絶対気のせいじゃないでしょう」
「義経様が大好きなのはいいけど、
ちーっとばかし過保護なんだよ、弁慶は」
「これくらい過保護のうちに入んねぇよ」
まるで自覚のない発言に与一が肩を
すくめていると、義経がふと口を開く
「そういえば、狐憑きに会った」
「「…………」」
「…先日、行った戦でも会ったと仰って
ましたね」
「んな偶然あるんですねー」
最初は偶然ではなかったが
祭りの一件は偶然である
「狐憑きってあれですよね。
ぱっと見、平凡っつーか
ごく普通の町娘に見えましたけど」
「初対面のあやかしを助けるのは
普通じゃねえだろ」
「だからぱっと見だって。
そういや、うちの兵も助けてくれたん
ですっけ」
「はっ、何考えてんだかわかんねえな」
「そうだな」
義経は口元にかすかな笑みを宿す
「思った以上に、不思議な人だった」
「義経様………」
「………」
予想外の反応に、弁慶と与一は顔を
見合わせた
「…………へぇ
珍しいこともあるもんですね
義経様がそんなふうに他人のことを
話すなんて」
「そうだろうか」
少し考えて義経は口を開く。