第20章 不思議なひと~義経side~
「…けれど──
──矛盾は誰の中にもある」
そっと目を閉じ
ある人のことを思い浮かべた
(───・・・)
「それを切って捨てることができる
人間を、俺は1人しか知らない」
『あの……』
「手当には礼を言う
家臣の命は俺の命。
あなたはそれをひとつ救った
だから俺もあなたを殺すことを
一度見逃そう」
『え………?』
そういうとは
ぱちぱちと目を瞬かせどうにも
疑心暗鬼といった様子で義経を見つめた
「意外そうな顔だな」
『だって、絶対殺されるって
思ってましたから……』
「安心していい
一度口にしたことは違えない」
安心したのかはその場に
へたりこんだ
を見下ろす形でそのまま話した
「頼朝公のいない戦は
俺にとって無価値だ
そんな中で味方を手当てしてくれた
丸腰の女を殺すことはできない」
義経の考えていることが
分からないと顔に書いていた
(───わかりやすい人だ)
(なのに俺もあなたが分からない)
すると刀を掴んだ手が痛んだのか
は顔を顰め
自分の手を手当てし始めた
『…………そういえば、
義経様は今日の戦に
「気まぐれで参加したって」仰ってましたけど』
手当てをする手を止めずに
義経に問いかけた
「縁のあるものに頼み込まれた
向こうも俺が承諾するとは
思ってなかったのだろう
酷く驚いていた
懇意に答えるのはやぶさかではない
すぐに動ける手勢だけを連れて、
肩慣らしも兼ねて参じたという訳だ」
『そう、だったんですか』
「幕府の兵が来ていると知れば、
もう少し兵を連れてくるべきだったな」
「頼朝公にとって、
あなたは大事な鍵となる人物だ
大事に手元にとっておくと思ったけれど……
どうしてこの戦に参加している?」
『戦に出たことがなかったので、
その、少しでも戦場に慣れるように……』
の身体は震えていた
「──
確かにあなたは戦いには向いていないようだ
玉藻と契りを解くためと
説き伏せられたのだろうが、
命を喪えば元も子もない
今のうちに幕府を出ていくことだな」
『…軽々しく戦場に立つことはできないと
今日、私も思いました
──だけど一度引き受けたことを
簡単に断ることも………したくありません』