第6章 うすべにひめ
「まあ、こんなふうにならないために頑張ってるわけだけど……」
人差し指で顎に触れつつ、今日の昼のことを思い出す。
食堂で浴びせかけられた多数の視線の中、ひときわ強い怒りのような、恨みのような…まさしく、仇でも見るような眼差しを向けてきた一人の少女、小原緋那のことを。
自身の周囲を嗅ぎまわっている人間がいるのは知っていた。
こちらにも一応、優秀な情報網はあるのだ。
既に白金からの学費の事は掴んでいるらしく、私がただの猿人でもないことにも気付いているのだろう。
赤司のことで頭がいっぱいな親友のために頑張っているのは随分と健気な話だが、向こうの事情は私には関係ない。
クラスでも些細なことで火神に突っかかっては困らせているようだし、少しお灸をすえる必要がある。
キセキの取り巻きという、少しは権力のある位置に居る人間で、そして今は、赤司の恋人の親友。
うん、あまり騒がれたり、出しゃばられても……邪魔だよなぁ。
端末を取りだして、あるカレンダーの画面を開く。
同じクラスのモデル、黄瀬涼太くんのスケジュール表だ。
そしてもう一つ、同じ寮の先輩と、小原緋那の一週間の基本的な行動パターン表。
どちらも提供してくれた優秀な支援者に感謝しつつ、頭の中で計画を立てる。
今日はおとなしく灰崎の誘いに乗った。
その灰崎に、和泉と話したければ白河を連れていけと吹き込んだのが緋那であるとも、灰崎自身から聞いて知っている。
その結果、結構な敵意を集めた。ゲームでは「ヘイトを稼いだ」と言うのだったか。要するに、狙われるリスクが上がったのだ。
ならば、これを利用しない手はない。
「黒子くん、さっそくだけどお願いがあるんだよね」
「なんでしょうか」
荒事は無理ですよ、と付け足す黒子くんに、だいじょーぶ!
と笑ってみせる。
「ちょっとだけ、魂の術……だっけ? カントクさんとか景虎さんに習ってる魔法的なやつ。あれ使う練習したくてさ。
実践に最適な人がクラスにいるでしょ。だから呼び出してほしいんだ」
「早速使うんですか、コンパクト」
「うん。何かヒントになるかもしれないし。それに彼、滅多に一人になりそうもないからね。ちょっと早いけど
……先に"落とし"ちゃったほうがいいかなって」