第6章 うすべにひめ
どんな意味でだろう。
和泉がそんな疑問を抱いた瞬間、ぐいとおとがいを引かれた。
「へぇ、赤司に女ができたって聞いたけど、
結構イイじゃねーか」
「え、えっ?」
「えー、しょーごくんここでナンパ?」
突然のことに混乱する和泉を品定めする灰崎に、
見境なさすぎー、と夜船はげんなりした顔で苦言を呈する。
「んだよ、しちゃ悪いか?」
「悪いっスね」
和泉が灰崎に狙われていると把握したのもつかの間、
今度は肩を引かれて灰崎から引きはがされた。
勢いでよろけた和泉を、赤司がぽすんと抱きとめる。
「大丈夫かい? 和泉」
「うん、ちょっとびっくりしただけ…でも」
先ほどまで自分がいた場所を見れば、
案の定、犬猿の仲の二人は火花を散らし始めている。
「おい、邪魔すんなよリョータ」
「いやいや、オレこのために呼ばれたんで。
頼まれた仕事はこなさなきゃだし…
汚い手で和泉っちに触ってんじゃねえよ」
「なんかわかんないけど、面白そうだね?
目力対決? がんばれーがんばれー」
「ちょっと白河さんは黙っててもらえないスかね!?」
白河のあまりにも棒読みな野次と黄瀬のツッコミに、
その場の緊迫が僅かに緩んだ。
「二人とも、そこまでにしておけ」
溜息の後に赤司が制止する。
灰崎は僅かに白河へ目をやると、
舌打ちとともに黄瀬から身を放し、
自称友人の隣の席にどっかりと陣取った。
なんか、妙におとなしいっスね。
やけに素直に引き下がる灰崎に、黄瀬は僅かな違和感を抱く。
普段なら赤司の制止が入ろうが、殴り合いになるときはなるのだが、
今回は人目があるからだろうか?
灰崎にも重種としての自覚はあるのか、と少し驚きつつ、
黄瀬も和泉の隣、赤司と二人で彼女を挟む席に腰を下ろす。
「ねえ、もう済んだならごはん取りに行って良い?」
お腹すいたんだけど、と紫原が唇を尖らせる。
どうやら荒事に備えて、一応待っていたらしい。
先に行って構わないよ、という赤司の言葉に、
赤司以外のキセキと和泉、黄瀬が特等席から降りていく。
「赤司君だっけ。私、お暇したほうがよかった?」
「いや、君には聞きたいことがある。
少し付き合ってくれないか……灰崎、お前もだ」