第4章 気になるあの子
恋人。
私が、赤司くんの恋人。
直前の言葉が、和泉の思考回路に反響する。
「言ってないけど、その……」
今の今まで、実感があまり持てていなかったのだが、そんな風に言葉にされると、すっごく恥ずかしい。そして、
「なんかすごく、嬉しいなぁ、って……」
まともに赤司の顔を見られず、もじもじしながら目線を泳がせた和泉が発した台詞は、一同に妙な沈黙を連れてきた。
和泉の恥じらいが感染したのか、その場にいた大の男たちまでもが、思い思いに照れくさそうな反応をする。
……なんだ、この可愛い生き物は。
性格や嗜好をはじめ、何から何までまでバラバラのはずの全員の思いが、奇跡的に一致した瞬間だった。
赤司は「僕の恋人」などと言ったが、斑類は基本的に、恋愛に対するタブーはない。
要は「何でもアリ」というのが通常だ。
繁殖の難しい種である斑類が、なんとか生き残ろうとした結果が、このような風潮に繋がったらしい。
同性に惚れた。
好いた相手には既に恋人がいた。
基本的にではあるが、そんなこと、斑類の常識内では、問題にすらならない。
更にここは斑類のために作られた帝光学園であり、彼らキセキと言えば、斑類の中の斑類といっても過言ではなかった。
つまるところ、この場にいない灰崎と、当の赤司や桃井以外のキセキたち、そして黄瀬涼太は、何の疑問を差し挟む余地もなく、こう思ったのだ。
『例え恋人がいようとも、皆元和泉を、ものにしよう』と。
そんな決意を固められていることはわからなかったが、流石に友人の様子がおかしいことは理解したのだろう。
「あれ? みんな、どうしたの?」
落ち着きを取り戻した和泉が、やや慌てて声を掛ける。
「顔赤いけど、大丈夫? 具合でも悪い?」
「いや、ちょっと違うと思うけど」
本気で心配しているらしい友人に、緋那は割と優しめに指摘した。
これが和泉相手でなかったら、問答無用で暴言を吐いている所だ。
「新しい環境でいろいろ疲れもあるだろう」
あえて突っ込まず、赤司も続ける。
「そろそろ寮に戻るぞ。入寮式の後で、各自十分に休息を取るように」
しかし、そう言って昔馴染みを見回す眼は、既に友人へ向けるものではなく、一人の男のそれだった。