第2章 カウンターパートの赤いやつ
小さい頃は、眠る前にお話を読んでもらっていた。
いちばん好きだったのはお姫様の出てくる物語で、最後はいつも誰かに見初められて、幸せに暮らすハッピーエンド。
「お父さんがね、お母さんのことを迎えにきてくれたのよ」
新しい絵本が見つからないとき、いつも母はそう言って、二人が出会ったときの話なんかをしてくれた。
富裕層の生徒が数多く在籍する、世に名高い「帝光学園」。
なかなか覗くことのできない世界だからか、はたまた大物を輩出している学校だからなのか。
真偽はともかく、世間では冗談混じりに恐ろしく語られることも多い学園だったが、母の口から語られるそこは、和泉にとって「お城のよう」な世界だった。
「あそこは、実は運命の人と出会うための場所なの」
そう語る母は、事実父と出会い、幸せに暮らしている。
和泉が帝光を受験したく思うのに、それは充分すぎる理由だった。