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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第13章 いま、この時だけは、〈煉獄杏寿郎〉




『ごめーん!かれんチャン!今日のライブ、残業で一緒に行けそうにないわ!ドタキャン悪い!』


 …は?何この人


かれんは駅のホームでその足を止め、スマホに届いたメッセージに苛立ちを覚える。


『全然!他の人誘うので大丈夫です!』


そう返信をすると、その男性のメッセージを全て消去した。


 全然悲しくなんかない
 こんなのしょっちゅうだし


かれんは何もなかったような素振りを見せて、大きな溜息をつく。


 とりあえず誰か誘うかな
 流石に一人はつまらないし

 カフェでも行こ


かれんは、お気に入りのコートのポケットに手を突っ込んで、カツカツとブーツのヒールを鳴らしながら、人混みの中を進む。


・・・


遡ること2週間前。


かれんは長く付き合っていた恋人に突然振られたのだ。
何の予兆もなく、それはやってきた。その日の記憶は殆ど覚えていない。

数ヶ月前から恋人の返信が何処となく冷たいとは思っていた。でも、気にしない振りをしていた。“そうなる”のが怖かったからだ。否、“そうなる”と分かっていたのかもしれない。

いつも待ち合わせ場所にしていた駅の改札で、恋人は会うや否や、開口一番『別れよう』とそう告げた。その一言で呆気なくかれんの恋は哀しい幕を閉じた。気付くと泣いていた。恋人はその涙を拭いもせずに、その場からあっさりと姿を消していた。直様友人に連絡し、涙が枯れるまで只管バーで泣いた。

恋人の声も顔も、既に朧げだった。違う、思い出したくないのだ。思い出せば、恋に、恋人に自惚れていた自分を思い出すようで嫌だったからだ。


 もう 何も信じたくない


かれんの心に酷く冷たい雨が打ちつけ、それは蝕むようにあの日から止むことはなかった。

その日からかれんは、友人達と頻繁にバーやバルに通い詰め、その場で声を掛けられた異性と連絡先を交換しては、寂しさを隠すように、虚しさを紛らわすように、その場限りの出会いを楽しんでいた。



 永遠なんてない

 今 この時だけでも

 幸せならそれでいい



氷のように冷え切ったかれんの心に、人の温もりはもう何の意味も成さない。


そう思っていたのに。



彼に、

“煉獄杏寿郎”に出会うまでは────



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