第10章 神様からの贈りもの〈煉獄杏寿郎〉
「そっかあ…!小夏、おねえさんになれるのかあ…!うれしいっ!!おとうさん、おかあさん、たのしみだねっ!!」
小夏は、嬉しそうに何度もふみののお腹をやさしく撫でた。
そんな愛おしい小夏の姿に、ふみのと杏寿郎はこれ以上ない幸せに綻んだ。
・・・
そして翌年の春─────
煉獄家のリビングのベビーベッドには、生まれたばかりの赤子がすうすうとちいさな寝息を立てていた。
この春、煉獄家に誕生した次女の小春(こはる)だった。
“小春”は、小夏が名付けた。
小春が生まれる少し前、杏寿郎の両親の槇寿郎と瑠火から小学校の入学祝いで貰った漢字辞典を、小夏は何度も眺め、出産予定日の数日前に「あかちゃんのなまえは“小春”がいい!」と見様見真似で紙に書いた“小春”の文字を、かれんと杏寿郎に見せてくれたのだ。
「お母さん!私が小春にミルクあげる!」
「ほんと?ありがとう!じゃあお願いね」
小夏は頬に哺乳瓶を当て温度を確かめると、小春をベッドからそっと抱き寄せ、ミルクを飲ませた。こむぎも見守るように、その様子を見つめている。
「小夏、とっても上手ねえ」
「うん!だって、小春のお姉ちゃんだから!」
自信満々に答える小夏のその表情は、もうすっかり“お姉さん”そのものだった。
小夏がミルクを飲ませ終わると、杏寿郎が小春をそっと抱き上げ、背中をとんとんと摩る。トクンと小春の体が揺れると、杏寿郎はゆっくりとベビーベッドに小春を寝かせた。
「ねえ!お父さん!」
「ん?どうした?」
「いい子にしていたら、神様からのプレゼント、またくるのかな??」
「っっ!?」
思わず杏寿郎とかれんはどきりとして、赤くなった顔を見合わせる。
「そ、そうだな!きっとそうやもしれん!」
「そっかあ!小夏、もっとお姉ちゃんになりたい!!」
「「!!??」」
るんるんと嬉しそうに、小夏はすやすやと眠る小春の寝顔を眺めた。
春の風に桜の花びらが舞い、あたたく煌めく日差しの中で、煉獄家の日常はさらに彩りを増してゆく。
小春が“お姉さん”になる日も、そう遠くないのかもしれない。
おしまい 𓂃◌𓈒𓐍