第10章 神様からの贈りもの〈煉獄杏寿郎〉
夏の眩い日差しが日に日に柔らかくなり、空にはうろこ雲が広がり始めていた。街の木々も少しずつ葉の色を変え、辺りは徐々に秋の雰囲気に染まりつつあった。
とある土曜日の早朝。
煉獄家に、元気な明るい声が響き渡る。
「おとうさーん!おかあさーん!あさだよー!!」
杏寿郎とかれんのいる寝室に勢い良く駆け込んできたのは、二人の愛娘、小夏だった。ベッドによじ登り、二人の体を交互に揺する。
「きょうはおしごとのひじゃないでしょ?!いっしょにこむぎのおさんぽにいくやくそくでしょう?」
「小夏、おはよう。今日も早起きで優秀だな」
「…んん〜…、小夏は早起きねえ…」
かれんはまだ眠たい瞼を薄らと開けながら、小夏の頭をくしゃくしゃと撫で回した。杏寿郎はゆっくりと起き上がると、まだあどけなさが残る小夏の頬を撫でた。
「おかあさん、かみ、こんがらがっちゃう!おとうさんもくすぐったいったら…」
小夏は今年の夏で、6歳になった。とにかく元気で笑顔が絶えず、その陽気さはいつも煉獄家を明るく灯していた。
来年から小学生ということもあり、“もう小夏はおねえさんだから!”が口癖になっていた。去年のはじめ頃、小夏は自室で一人で寝ると宣言し、ベッドを購入してもらった。他にも家事の手伝いをしたいと言い、その成長ぶりにかれんと杏寿郎は驚いていた。我が子の成長の喜び以上に嬉しいことはないと、一生懸命に洗濯物を畳む愛らしい後ろ姿に、二人はいつも癒されていた。
小夏は、生まれた時から一緒に過ごしてきた愛犬のこむぎが大好きだった。週末は家族揃って、朝の散歩に出かけるのが日課になっていた。こむぎも小夏によく懐いており、二人は本当の兄弟のようだった。
「…ねえったらあ、おかあさん、おきてよぉ〜」
「小夏、お母さんは少し仕事で疲れている。今日は小夏とお父さんとこむぎの3人で行こう」
「…うん…、おかあさん、びょうきなの…?」
「いや、大丈夫だ。ゆっくり休めば直に良くなる」
「…小夏、約束守れなくてごめんね。次は一緒に行くからね」
「うん!たくさんねて、はやくげんきになってね!」
「ありがとう、小夏」