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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第5章 ロータリーの歌姫〈煉獄杏寿郎〉




桜が舞う、あたたかい夜。いつもの仕事帰り。
杏寿郎は仕事を終え、電車に揺られていた。

新卒で教師の仕事に就き、既に6年が経っていた。杏寿郎のいる学校は初等部から高等部のまである一貫校だった。最近は、大学の建設も検討されていると噂される大規模な学園だった。

杏寿郎の担当教科は歴史。2年前から高等部のクラス担任も務め始め、忙しくも充実した毎日を送っていた。クラスの生徒は皆元気で明るく優秀で、生徒会を担う生徒も多かった。そしていつも自分を慕ってくれることに嬉しさが込み上げてくる。

(今日も遅くなってしまったな…)

高校教師になってから、進路や進学のことで生徒から相談を受けることも増えた。話を聞きつつ、その生徒に合った進路について調べていると、あっという間に時間が経ってしまう。自分の生徒には後悔なく思うままの未来に進んで欲しい。杏寿郎はその日も遅くまで残業し、既に時計の針は22時を回っていた。


『お客様にお伝え致します。この先の駅で人身事故が発生し、この電車は次の駅で運転を見合わせます。お急ぎのお客様は───…』


車掌からのアナウンスに車内のサラリーマン達は深いため息をつく。電車は間も無くして駅に着到着した。車内では皆諦めたようにスマホをいじったり、眠りにつく姿が見られた。その駅は杏寿郎の最寄りの駅の一つ手前だった。

(一駅分、歩いて帰るか…)

その駅から最寄りの駅まで歩いても20分と掛からなかった。杏寿郎は電車を降り、改札を出た。

隣の駅なのに、杏寿郎はその駅を降りたのは初めてだった。初めて見る景色に心が躍った。駅周辺は閑散としていたが、駅前の大きな桜の木がその駅を優しく包み込んでいるようだった。その横に静かに立つ大きな時計台も趣がある。その桜の木の根元を囲むように咲くチューリップの花壇が広がる。そこには、夜も大分遅いというのに、数人の人だかりができていた。耳を澄ますとギターの音が聴こえる。杏寿郎はその音に導かれるように、その人だかりの方へと向かった。

杏寿郎はその人だかりの隙間から、ギターの音を追いかける。そこには花壇の縁に座り、アコースティックギターを持つショートヘアの少女がいた。少女といっても、その容姿は杏寿郎と同じぐらいだろうか。

「 “名前を呼んで” 」

そう少女が言うとギターが前奏を始めた。少女がすうっと息を吸う。

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