第25章 天明のひとときを、いつか〈宇髄天元〉
「…全然です。宇髄様に助けていただかなかったら、…私は死んでました。…私はまだ…何も成し遂げられていません」
自分は何の為に、鬼殺隊にいるのだろうか。
隊服を身に付け日輪刀を構えていても、鬼の頸を斬らなければ意味がない。かれんは己の未熟さに打ち拉がれる。
すると、ぽん、とかれんの頭上に天元の大きな掌がのった。
「誰もはじめから完璧になんて出来ねーよ。…少しずつ、強くなればいい」
そっと顔を上げると、天元が微笑む。それはかれんの心をやさしく解きほぐすようだった。
天元の掌は、ふわりとかれんの頭上から離れた。
「…あの、」
「ん?」
「…強さって、何でしょうか?」
天元はそれを聞くと瞳を丸くして、不思議そうに瞬きを数回繰り返していた。かれんは幼稚なことを訊いてしまったと、その質問をしたことを悔いた。でも、訊いてみたかったのだ。どうしたら、皆のような、柱のような、強い剣士になれるのかを。
天元はふと、笑みをこぼした。
「ん〜…、そうなあ。人それぞれ、思うもんがあるかもしれねぇけど…。…誰かを守りたいってことなんじゃねーの?」
「…“誰かを守る”…?」
「俺の考えはな。人でも、モノでも、何かを守ろうとするその意思が、もう既に強くなってることだと思うぜ、俺は」
守り たいもの…
それを聞いて、かれんの目の前に浮かんだのは、今は亡き妹の笑顔だった。かれんの妹は、鬼に襲われかけ重傷を負ってしまい、若くしてその命を落としてしまったのだ。
いつも自分の背中を押してくれていた妹。
どんな時でも、笑顔が絶えない明るい人だった。
その笑顔は、ずっと傍にあると思ってたのに。妹は呆気なく、この世を去ってしまった。
妹はもう二度とかえってはこないのだと、笑う妹の遺影を見て声を殺して泣いた。
この先の人々が自分と同じような悲しみを繰り返してはならないと、かれんは鬼殺隊への入隊を志願したのだった。
ぼぅっと俯くかれんに、天元は話しを続けた。
「鬼殺隊にいて、鬼を相手に立ち向かう。…何かしらの貫く想いがなきゃ、そう簡単に出来ることじゃねぇよ。…もう日が暮れるな。兎に角今は、しっかり体を休めろ」