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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第20章 たなびく風に想いをのせて〈謝花妓夫太郎 / 謝花梅〉





「…手ぇ、緩めてんじゃねぇ」



妓夫太郎は片手でハンドルを握ると、もう片方の手でかれんの手をさらにぐいっと自身の腹に押し当てた。

ほんの少しの間、妓夫太郎とかれんの手が重なる。妓夫太郎の大きな掌が、かれんの手をすっぽりと覆った。


 妓夫太郎さんの手 あったかい


その思いも束の間、暫くすると妓夫太郎の手はハンドルに戻った。かれんの手にすこし冷たい夜風が当たり、妓夫太郎のぬくもりまでもが恋しいと思ってしまった。

かれんはそっと、妓夫太郎の逞しい背中に、その頬を押し当てた。そして消えてしまいそうな声で、ちいさく、ちいさく、かれんは呟いた。





「…妓夫太郎さんが 好き」





妓夫太郎からの返事はなかった。

ただ、夜の風の中を、バイクは颯爽と走り切る。

この瞬間だけでも、妓夫太郎を想えた幸せに、かれんはまた目頭が熱くなった。


「妓夫太郎さん、ありがとう」


最後に、かれんはそっと呟いた。

・・・


「今日はありがとうございました…!本当に楽しかったです」

「…ほんとにここでいいのかぁ?なンなら家まで…」

「いえいえ!!もう本当に!妓夫太郎さんに色々連れてっていただいたので!」

「…。…ンじゃ、またなぁ」

「はい!また学校で!梅さんにもよろしくお伝えください。では失礼します」

かれんはにっこりと笑い、お辞儀をすると駅のロータリーへと向かった。


かれんが見えなくなるまで、妓夫太郎はその姿を目で追った。何処となく感じる淋しさに、妓夫太郎はふうと息を吐いた。





駅に着く少し前。

背中から聞こえた小さな声。

背中にそっと伝わったかれんのぬくもり。




「好き」と言っていたように、聞こえた。





 …気のせいか

 でも…





気付けば、妓夫太郎もかれんのことが好きだと思った。
かれんの笑顔が、忘れられなかった。

理由なんてない。
ただ、好きだと、心が叫んでいた。


妓夫太郎は次にかれんに会った時、この想いを打ち明けようと心に決めた。





風にたなびくようにやってきた、やさしい恋。

二人の想いが、どうか結ばれますように。








 おしまい 𓂃◌𓈒𓐍

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