第19章 還るところはいつも〈煉獄杏寿郎〉
『だぁからぁっ、言ってるだろ?!俺が言いたいのは、頭ごなしに言ってくんなっつってんの!!』
「た、大変申し訳ございませんでした…。ですが、今回の件に尽きましては…っ」
『何?!俺が悪いっての?!ったく、ラチ明かねぇな!!上だせよ上!!!』
かれこれ30分は、かれんはこの客と電話で話しをしていた。先日の窓口での対応が、どうも気に入らなかったらしい。しかしこちらとしても、やるべき事を指定のマニュアル通りに行っていた。勿論、贔屓をしていた訳でもない。その客はただ自分の鬱憤を晴らそうと、何かにつけて文句を吐き散らしていたのだった。
「はい…はい。この度はご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ございませんでした。お客様のご意見は、全スタッフにも周知させていただきます。貴重なご意見を賜り、ありがとうございました。…それでは失礼しま…」
ブチッ ツー ツー ツー…
……。
はあ…疲れた…
かれんは大きな溜息をついた。
「かれんちゃん!電話、大丈夫…??」
心配そうにかれんのデスクにやって来たのは、同期の竈門禰󠄀豆子だった。
「うん!何とか片付いたからもう大丈夫!話しを聞いてあげたら落ち着いたみたい」
「そっか…、全部任せちゃってごめんね…」
「ううん!全然!…って、もうお昼なのね!向かいの道に新しくできてたサンドイッチ屋さん、行ってみない??」
「あ!いいね!そこにしよっ!」
かれんの業務は所謂デスクワークだ。各デスクに備え付けられた固定電話は、2コール内で取るのが暗黙のルールになっていた。そして稀に掛かってくる客からのクレームにも対応しなければならない。
かれんの脳内には、その男性から言われた言葉がぐるぐると重く駆け巡る。荒々しい暴言は、容易く人を傷付ける。心にぐさりと容赦無く刺さった言葉の釘は、簡単には抜けないのだ。
かれんは俯きがちに、ランチのサンドイッチを食べていると、禰󠄀豆子がまた心配そうに声を掛けてきた。
「かれんちゃん、本当に大丈夫…??何でもいいから、ちゃんと話してね」
「うん!禰󠄀豆子ちゃん、いつもありがとう」
いつもたくさん助けてもらってるもの!とにっこり微笑む禰󠄀豆子。
そんな禰󠄀豆子の優しさにかれんの心はほっこり癒された。