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檸檬香る、その恋に【鬼滅の刃 / 短編集】

第15章 灯る君のてのひらを〈煉獄杏寿郎〉




「…だめだ…。絶対間に合わない…」


かれんの机の周りには、くしゃくしゃに丸まった紙がいくつも転がっている。部屋の時計は、間もなく深夜2時になろうとしていた。

かれんのスマホには、担当マネージャーである我妻善逸からの不在着信が何件も届いている。そして同じ量の留守電も。



夕方、かれんは善逸に電話で正直に申し出た。今回に限っては間に合う気がしない、と。返事はこうだった。

『えぇぇえぇえぇえぇ?!!?!?!ちょっっっ先生っっ!??!僕、随っっ分前から締め切りの期日、言ってましたよね!??!?!なのに、えっ、ちょっ、何ですか!?!??!間に合わないって!!!おかしくないですか!??!!僕、ちゃんっっっと言ってましたよね!?!!?明日!!何が何でも!!明日10時ですっっ!!!絶対10』


プツッ───…


かれんはいけないと思いつつも、電話を切った。項垂れるように額を机にゴチンと打ちつける。


「…我妻くん…本っ当に…ごめん…」



締め切りまであと8時間。明日(というか今日)の10時までにこの原稿を描き終え提出しなければ、ページは白くなってしまう。
いつも善逸を泣かせ困らせ(悲鳴を上げさせ)、彼のメンタルを木っ端微塵に崩壊(粉砕)させているのは自分だ。毎回こんなことばかり繰り返す自分の出来の悪さに悲しくなってくる。

でも進まないのだ。終わりが全く描けない以前に、イメージすら浮かばない。どうしようと焦れば焦るほど、余計に手が止まってしまう(止まるどころか、そもそも全く動いてもいないのだが)。

かれんは窓の外をぼうっと眺めた。電信柱の蛍光灯が寒々しく灯り、その周りを墨汁を塗ったような漆黒の闇が広がる。びゅうっと風が窓を叩き、冷え切った外気が伝わってくるようで、かれんはぶるっと身震いをした。叶うならば暗闇に舞う木枯らしに身を眩ませ、姿を消してしまいたいとも思う。そしてこれを最後に漫画家を辞めようかとも考え始める(とりあえず今の作品を終わらせてからと思うが、それすら終わっていないと焦り我に返る)。
かれんは、何度目か分からない深い溜息を吐いた。

かれんは、毎月発売される短編少女漫画集『檸檬』の連載を受け持っていた。読切で、毎回異なった女性主人公が、一人の男性との恋愛を描く短編物語だ。

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