第1章 始まる
それ以上聞くのをやめた。
するとその時、恋の前に呪霊が現れた。
さっきまでのよりは少し言葉がわかるようだ。
恋のお手並み拝見と行きますか。
「傑、手出すなよ」
「ああ、わかっているよ」
俺たちは固唾を飲んで恋を見ていた。
恋は手袋を外したかと思うと、次は肩を出し始めた。
「えっ、あいつ何脱いでんだよ」
「一体、どういう事だろうな」
いつも冷静な傑も動揺しているようだ。
俺と傑が焦っていると、恋の左腕が完全に晒された。
そしてよく見ると、肩から手のひらにかけて蛇のタトゥーの様な模様があるのが見えた。
背中の方に頭があり、鋭い眼光でこっちを見ている。
そこから腕の方にぐるぐる巻いていき、尻尾は手のひらにあるようだ。
だから手袋はめていたんだな。
蛇は炎を纏いながら浮き上がり、呪霊に巻き付いた。
「それでいいよ恋、後は私が取り込む」
傑がそう言うと恋は蛇を戻した。
地味な顔してなかなかやるじゃん。
帰り際、恋を呼び止めた。
振り向くとやっぱり地味な顔。
「蛇使いか…やるな」
一言だけ賛辞を送った。
恋は何だか驚いた様な顔をしていた。
「五条、恋どうだった?」
外に出ると、硝子が小声で聞いて来た。
「結構デキるよ。正直驚いた」
俺も小声で答える。
「そっかぁ。よかった」
硝子は安堵した様子だ。
「まあ、最強の俺様には敵わないけどねっ」
硝子は俺の言葉を無視して恋の方へ走って行った。
俺は夕日を見ながらさっきの事を思い出した。
白い肌に艶かしく浮かぶ紅い蛇。
地味な女だと思っていたけど、あれには本当に驚いた。
終わってから声を掛けたけど、やっぱり地味で。
妙な女に出会った…