第34章 嬲る
「これでいいですか?」
「はい、あのお方もさぞやお喜びのことと思います。」
恋と別れた。
あんなに愛した人を傷つけてしまった。
不可抗力とはいえ、傷つけてしまった事にかわりはない。
以前尊敬していた彼は、私の身近な人間に近づいて巧みに操り私をはめた。
高山涼子、彼女は私の元上司の娘。
子供の頃から見える体質だった。
3級ぐらいまでの呪霊なら何とか倒せるレベルだ。
しかし、彼女は学生の頃から素行が悪く問題ばかり起こしていた。
父親である上司が嘆いているのをよく耳にした。
私が会社を辞めて術師として働き始めた頃、彼女はタチの悪い呪詛師と付き合うようになっていた。
元上司から相談を受け、涼子を説得して高専の補助監督としての仕事を斡旋した。
それがいけなかった。
私は涼子の本質を、彼女の裏にいる呪詛師の本性を見抜けなかった。
後で知った事だが、涼子が高専で働き始める前に元上司とその妻が殺された。
犯人は涼子とその裏にいる呪詛師達。
何故、もっと早く見抜けなかったのか。
私の未熟さ故の過ちだ。
先日、高山涼子がその本性を表した。
「建人くん、これ見て。」
彼女がスマホの動画を私に見せた。
そこに映っていたのは何年も前に事件を起こし、逃走している夏油傑だった。
『七海、久しぶりだね。』
髪を下ろし、僧侶姿の夏油。
『元気かい?君、恋と付き合ってるんだってね。びっくりしたよ。私が涼子を高専に送り込んだ直後の事だったからね。タイミングがいいやら悪いやら。』
送り込んだ?
隣にいる涼子を見る。
『君に頼みがあるんだ。恋と別れてくれないか?恋には悟と付き合っていてもらわないと困るんだよ。私はね、悟が愛してる恋を愛しているんだ。』