第29章 破れる
「それはすごいもの見たね。」
瞬きをすると溢れる涙。
「さ、とる?」
目を開けると悟がいなかった。
「ここだよ、ほら。」
いつの間にか私の横に立っていた。
「辛かったね。」
頭を撫でられる。
優しい手のひら。
涙が止まらない。
「もういいの。高山に差し上げたから。」
早々にバラしちゃった。
「えっ?もう別れちゃったの?」
「うん。」
「七海に捨てられたの?何なら僕が痛めつけてくるよ。」
「やめて、絶対やめて。」
悟の腕を掴む。
その時、昨夜硝子から言われた言葉を思い出した。
色んな事を深く考えすぎなの。単純に考えればいいのよ。好きだから寝る、嫌いだから別れるってね。
単純に……か。
この状況で単純に考えると、悲しいから大好きな悟に慰めてもらう……かな。
大好きな悟に……
そんな事簡単に出来ないよ、硝子。
あーあ、何だかバカバカしくなってきた。
「何で別れたのに七海の好物作ってんの?」
「思いっきり食べて忘れるの。」
「大丈夫?抱きしめてあげようか?」
手を離し、顔を逸らす。
「結構です。」
「何だよいいじゃん、七海とは別れたんだし気にする事ないじゃん。」
「何か色々バカバカしくなっちゃった。」
「何いきなり開き直ってんだよ。」
「何でアンタはそんなに能天気なの?何でそんなに自由なの?何でそんなにバカなの?」
悟を見上げる。
「こんな僕が好きなくせに。」
ニカッと笑う悟。
この笑顔、本当好きだなあ。
何でこんなに好きなんだろ。
「あー、何か腹立つ!」
おはぎを手に取り口に押し込む。
「ふーん、否定しないんだ。」
横に立つ悟を見上げるとニヤニヤしていた。
「ん?ひ、へい?」
おはぎをもぐもぐしてるから上手く喋れない。
「こんな僕が好きなんだ。」
「………知らない。」
再びおはぎを取って口に押し込んだ。
「食べすぎたら太るぞ。」
「いいもん。」
「まっ、太っても好きだけど。今だってお尻とかおっぱいとかぷにぷにしてて好きだし。」
バカな悟を無視して食べ続けた。