第23章 陰る
「五条さんです。」
スマホを見た建人が言った。
私は悟の電話を着信拒否しているから建人にかけてきたんだろう。
「私は……話したくない。」
「わかりました。私が話します。」
「はい、七海です………五条さん………はい、ここにいますけど………本人が嫌だと言ってます………泣いています………以前、私が言ったこと覚えていますか?今度泣かせたら奪うと………とりあえず今夜はウチに泊めます、では。」
電話を切る建人。
今度泣かせたら奪う?
そんな事言ってたなんて知らなかった。
「建人………」
「ずいぶん焦っているようでした、五条さん。」
建人は私の背中に手を回し、肩を引き寄せた。
彼の肩にもたれかかる。
あったかくて、安心できた。
ゆっくりと目を閉じる。
涙はじきに止まった。
そしてあろう事か、そのまま眠ってしまった。
昨夜はカードの事が気にかかり、よくねむれていなかったから。
どのくらいそうしていたかはわからない。
目を開けると、建人の顔が真上にあった。
「け、んと?」
名前を呼ぶと、顔を真っ赤にする建人。
そこでやっと気づいた。
私は仰向けに寝ている。
建人の膝枕で寝てるんだ。
「ごめん、建人、重かったよね。」
慌てて起きあがろうとするも、建人に止められた。
「大丈夫です。眠ってて下さい。もう少し、こうしていたい。」
自分で言ったくせに顔を赤らめる。
もう、可愛いんだから。
目を閉じると、大きな手で頭を撫でられる。
優しい手。
心地良い。
そして次は指の腹で額、まぶたとなぞられる。
鼻筋、頬、そして唇に指が触れた。
舌を出し、建人の指を舐めた。
一瞬、彼の体が体がビクッとした。
可愛いな。
すると今度は額にキスされる。
目を閉じているせいか敏感になってるな、私。
今はただ、この温もりに身を置いていたい。
今はただ、全てを忘れてしまいたい。