第17章 嘲る
「恋。」
突然、目の前が暗くなる。
「建人。」
建人に抱きしめられたのだ。
「あらまぁ、お邪魔だったかしらん。」
奥の処置室から硝子が出てきた。
建人は瞬時に私から離れる。
「硝子!」
「まったく、七海も隅におけないねぇ。」
「家入さん。」
「手が早いよ、七海。」
「そんなんじゃないよ。ね?」
建人に向かって聞く。
「え?ええ、まあ、そ、そんなんじゃないです。」
う、狼狽えてる?
あの建人が?
「私もコーヒー入れてー七海。」
硝子が空のマグカップを差し出す。
「そうだ、貰い物のクッキーあるよ。」
「わーい、クッキー!」
喜ぶ私。
「アンタは甘いもので元気になれていいね。」
「食べなきゃやってらんないからね。」
とにかく食べた。
クッキーを。
食べて食べて食べまくった。
「ふぅ。まんぷくぅ。」
「アンタねぇ。いくらなんでも食べ過ぎ。ねぇ?七海。」
「恋……」
建人がボーッとした顔で私を見てる。
「はい、こりゃダメだ。」
何故か呆れる硝子。
「け、んと?大丈夫?」
訳の分からない私。
「持って帰る?七海。」
硝子が建人に聞いた。
「何を?クッキーなら私が全部食べちゃったよ。」
「アンタは鈍感だね。」
硝子が笑った。
「何が?」
ますます訳がわからない。
「いえ、さすがにそれは出来ません。私は五条さんとは違います。」
急にシャキッとした建人。
「まあ、そうだけど。もう五条の物じゃないよ?」
ちょっと待って!
このクッキー悟のなの?
……んな訳ないか。
……って事は持って帰るのって私の事?
建人が持って帰る?
急に恥ずかしくなる。
「いえ、やはりそんな強引な事はできません。五条さんではないんです。」
「だろうね。冗談だよ、七海。」
「だと思いました。」
な、なんなの?冗談?
「ごめん、話について行けてないんだけど。」
二人の顔を交互に見る。
「アハハッ、そこがアンタの魅力よ。ね?七海。」
「そうですね、家入さん。」
私には何が何だかわからなかった。