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BLEACH 【短編集】

第1章 幸【さち】


「そうなの、ご飯作っちゃったのに。」
「そんな量じゃすぐ食い切る。」

 大柄な男は卓上に並んだ夕食にチラリと目を向けて言う。その言葉に緩く目を細めて華は更木に隊長羽織を脱ぐように促す。

 食事の後は交互に風呂に入り、更木が出てくるまでに晩酌の用意をするのが華の役目だった。更木が言ったわけではないが、一度試しにしてみたところ彼の鋭い眼が嬉しそうだったことで日常化していた。

「見てこれ、乱菊に教えて貰ったの。」
「…てめえは酒飲まねぇってのに。」
「でもお酒には詳しくなったわ、貴方のおかげでね。」
「ハッ。」

 鼻で笑う彼はいささか楽しそうだ。戦いの中でしか己を見出すことが出来なかった彼にとって、妻の存在は彼女が思っている以上に彼の中で大きなものになっている。

 床に置かれた徳利が2つになるころに、不意に更木の腕が伸びて妻の腰に回った。んー?と言う妻の声を拾いながらそっとその身体を胡坐の中に収める。

「何かあったの?」
「何でもねぇ。」
「そう。珍しく今日は甘えたがりね。」
「あ?」
「ふふ、何でもない。」

 常人ならば震えあがりそうな威圧も、妻には全く通用しない。それどころか尚のこと嬉しそうにふわりと笑う彼女に剣八は嘆息した。

「ねぇ、」
「あぁ?」
「眠い…」

 妻の身体から徐々に力が抜け、胸元に暖かい重力がかかった。どうやら睡魔と戦っていたが、あっけなく敗北したらしい。
 そのまま夢の中に落ちた妻の小さな手を弄る。こんなに小さな手で虚を屠る姿に、目を奪われたのだ。いつもは穏やかな彼女が、虚を前にすると一変して圧倒的な力で切り捨てていく。十三番隊の席官である彼女を見た時のことを思い出しながら、剣八はそっと小さな体を抱えて寝室に運んだ。

 そして自らも寝台に上がると眠る妻の身体に腕を回し、穏やかな顔に向かって囁いた。

「…オレの隣でこうも呑気に眠りこけられるのはお前とやちるくらいだな。」

 彼のそんな独り言は、誰にも拾われることなく静かな夜に溶けた。

 














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