第43章 Requiem 場地
俺にとって、ランという存在は、
癒しの小動物みてぇなもんだった。
初めて佐野家の道場で会った時は、
あまりにも鋭く睨んでくるその気迫に思わず口を開けたまま時が止まった。
「んだ…こいつ…」
「ランってんだ!
家族んなった!」
「はぁ?」
「ラン!コイツ俺のダチ!
ほら場地!自己紹介しろよ!」
マイキーにバシッと背中を叩かれ、
俺はこのクソ生意気そうなガキに険しい顔をする。
「場地…けーすけ…」
そのままの顔を崩さずそう言うと、
ランは無言のままフンっとそっぽを向いて行ってしまった。
俺は心底驚愕した。
「は?!?!なんだありゃ?!ウザっっ」
「あいつまだ俺にも真一郎にもちょっとあんな感じなんだ。
お前だけじゃねーよ、だから気にすんな」
「あん?気にすんなって…無理だろ!
喧嘩売られてんだぞこっちは!!」
「だから喧嘩売られてるわけじゃねぇんだって」
その後のマイキーの話を聞いて俺はランに対する意識が180°変わった。
はっきり言おう。
それはただの「同情」だった。
まるで捨て猫みたいだと思った。
身も心もズタボロにされて捨てられて、
拾われた先で、相手を牽制して威嚇する。
弱い自分を必死で守るように。
誰も信じられない。信じない。
自分のことも他人のことも大嫌いで
きっと苦しくて悲しくて仕方がないんだろうけど
それでも強がって威嚇して必死に自分を守ろうとしてるんだろうと。
でもその守り方は間違っている、と
どうやったらうまく教えてあげられるだろうかと考えた。
生きづらそうで可哀想…
ただ単純に
優しい俺からの同情だった。