第39章 respective
…安田さんの言う通りだった。
三ツ谷は帰ってからずっとボーっとしていた。
そのおかげで料理をしていても初めて包丁で指を切ってしまったくらいだ。
そして痛みまで感じなかった。
それくらい憔悴しきっていた。
あの男には喧嘩で勝てなかったどころか
全く歯が立たなかったし
ランに情けないとこ見せちまったし
哀れんだような目で見られたし
好きな女の前でムカつく男に負けるなんて、
一番プライドが傷付けられる。
「もうほんっと最悪だ…消えてぇ」
ルナマナにご飯をあげ、
食欲の湧かない自分はほぼ手をつけなかった。
「… ラン…俺のこと嫌いになっちまったかな」
つい我慢ならなくて感情を表に出してしまった。
いくらなんでもあんな言い方はなかったかもしれない。
最後の傷ついたようなランの顔が脳裏に焼き付いて離れない。
「はぁ………」
眠れない。
溜息しか出ない。
ランから連絡はないし、
自分からするにしてもなんて言っていいか分かんねぇし、マジどうしていいか分かんねぇ…
正直かなり腹立ってるのは確かだし。
「……俺も余裕がねぇただのガキだな…」
ランがどんどん魅力的な女になっていっていて前から気が気じゃないし、みるみる自分に自信がなくなっていくのがわかる。
俺はランのために何をしてあげられるだろう?
嫌われないためには?
ずっと好きでいてもらうためには?
他の男に奪われないためには?
他の男に目移りしないためには?
どうしたらいい?
最近はランを見る度そんなことばかり考えていて、ちょっとしたことにも敏感になってしまっている。
信用してねぇわけじゃねぇのに…
俺、いつからこんな狭い男になっちまったんだろ。
これじゃランに嫌われても浮気されても仕方ない気がする。
……このままじゃダメだ。絶対に。
少し自分を冷却する必要がある。
じゃないと…
ランに何してしまうか分からない。