第36章 regain
「おい、月乃ラン」
「は?」
ドンッ
振り返った瞬間に路地の壁に押され、強く背をついてしまった。
「え、なに?は?誰?え、なんなの?」
全く状況が分からない。
目の前にいるのは知らない不良だし、恐らく年上だ。
「つぅか触んじゃねぇよ!」
胸ぐらを掴まれていた手を懇親の力で外し、鋭く睨みあげる。
「いきなり私に喧嘩売りに来るなんていい度胸だな」
自分の名前を知っていたし、
どうせどこかのチームの奴だろうと思った。
「いっつも東マンの誰かしらといるからぜんっぜん近付けなかったけど、今日は1人なんだな?よーやく隙ができたぜ。」
「っ!」
いつもは確かに三ツ谷か万次郎もしくはドラケンと下校している。
でももうあの時の犯人は捕まったことと、精神的にも少し軽くなったこともあり、最近は1人でも歩けるようになった。
「ちょいとツラ貸せよ」
「はっ?なんで?
そんな暇ないから。どけよ。」
そう言ってスっと横切ろうとすると、
その男は前に出てきた。
「どけっつってんだよ。2度目はない。」
いつもだったら、誰もがこのランの表情と醸し出すオーラで怯むのに、この男は眉一つ動かさずに不気味に笑っている。
昔からたまにこういうことはある。
喧嘩を売ってきては、勝ったら自分らのチームに入れだのと言う。
負けたことは無いのだが、女だからといって舐めているのだ。
俺ならいけるんじゃないか、と。
「あのねぇマジで今日は忙しいの。
今すぐ超大事な用事があんの。
別の日ならいつだって喧嘩買ってやるから出直してきな!」
「少しくらいいーだろー?
じゃねえとどこまでもついてくよ?」
「……」
めんどくさ…
もうこうなったらとっとと終わらせよう。
隆に迷惑かけるのは1番嫌だし。
そう思って仕方なく男についていくことにした。