第34章 ratio*
「俺はねラン、
好きな奴には悲しんでほしくないんだ。この先ずっと笑っててほしい。それが俺の幸せなんだ。
俺にとっては、ランも三ツ谷も、東マンの奴らもみんな、大好きな宝だから。」
そう言って万次郎は笑った。
「自分の幸せが好きな奴の幸せなんて、
すげぇラッキーだと思わない?」
無邪気な笑顔に、
ついにランの目から涙がこぼれ落ちた。
"人が動くときはね、
自分の幸せのためか、好きな人の幸せのため。"
柚葉の言葉がまた反芻した。
「万次郎…私ね、これからも…
万次郎のそばにいるから。命を懸けて守るから。」
万次郎を真っ直ぐ見つめて手を握った。
「挫けそうな時、万次郎が万次郎でなくなりそうな時も、いつどんな時でも命を懸けて救い出すから。」
"挫けそうな時、俺が俺でなくなりそうな時
俺を叱ってくれ。兄貴のように。"
万次郎は、かつて自分が言った言葉を思い出して
目を見開く。
「…ね?万次郎。」
そう言って潤んだ目で力強く見上げてきたランに、切ないくらいに胸を締め付けられた。
この先、何が起きてもきっと…
ランがそばに居てくれたら大丈夫。
絶対に。
そう、心の底から思えた瞬間、
力強くランを抱き締めていた。
思えば、俺の体が無意識に動いちまう瞬間は、
いつだってランを前にした時だった。
"関係がどうとかばっかり気にして、
一緒にいられる幸せを、見失うなよ。"
ふいに、ケンチンに言われた言葉が蘇った。
そっか。
俺はいつも、
1番大切なことを見失っていたのかもしれない。
第34章 ratioーFinー