第32章 rear
「どーしたよ、マイキー
こんなとこに呼び出して。
つーかここ、なっつかしーなー」
「ケンチン…もう俺、限界かもしんねぇ…」
キラキラと光を放っている海の向こうを真っ直ぐ眺めながら、ポツリと呟くその言葉に、ドラケンはその意味を察したようにピクリと眉を動かす。
海水の匂いのする、どこか冷たい風に吹かれたまま、しばらく沈黙が流れた。
「自分のもんにならないと分かってる奴を好きになんのは辛いだけだ。」
ドラケンがそう言って、横に腰を下ろした。
「自分を偽って、相手を騙して、
ランと一生、家族としてやってけんの?」
いつも平気な顔をしていた万次郎の本当の気持ちは、ドラケンが1番よく分かっていた。
1度は諦めたんだろう。
けれど、場地がいなくなってから、
空虚感は一気に増したんだろうと。
言葉では言い表せない虚無感が。
万次郎もドラケンも、無の表情のまま前を見つめている。
「つぅかよ、女として好きなら、それ、」
ドラケンの静かな声が、
風に消えていきそうになる。
「もう家族じゃねぇよ」
ハッとしたように万次郎の目が見開かれた。
分かってるよそんなこと…
そばにいられればそれでいいって思おうとしてた。
ランが幸せならそれでいいって。
でもそんなのウソだ。
分かってる。
大事なダチの女。
俺の大事な家族。
だから
嫌な奴になりたくなくて。
嫌われたくなくて。
認めたくなくて。
必死で逃げてきた。
素直になるのが怖い。
自分の心を覗くのが怖い。
でも
誰かの前に自分を投げ出してみたいと
思うことがある。
俺はホントは
弱い奴だから。