第20章 rage
「行ってくれラン」
「っ…一虎ぁ……」
「ごめん…ほんとに…っ」
一虎の涙もその手にボタボタと落ちていった。
ランがゆっくりと手を離すと、
三ツ谷に肩を支えられる。
しかし、震える体と足が、立ち上がることを拒む。
「立つんだラン」
「無理…だよ…っ…」
立て…ない…
立てないよ…圭介ぇぇ…っ…
「…うっ…く…一緒に来てよぉぉ…圭介ぇぇぇ」
そのとき…
"七転び八起きだ、ラン"
場地の声が聞こえた気がしてハッとする。
無意識に、スっと自分の脚が動き、立ち上がった。
震える体が不思議なくらいに軽くなっていた。
「っ…ぅうっ…っ…」
場地の切れたミサンガを握り締めたまま何度も強く頷いた。
「わかっ…たよぉ…わかっ、たよ、圭介ぇ…っ…」
幼い頃からいつどんなときでも
そう言って手を差し伸べ、立ち上がらせてくれた彼が
最後の最期も、
こうして立ち上がる力をくれたのだと思った。
場地のミサンガをそっと一虎に握らせ
唇をかみ締めて踵を返した。
最後に脳裏に焼きついた場地の顔は、
八重歯を出して笑っている、
大好きだった彼の笑顔だった。