第10章 return
TAKASHI
その文字が目に入った瞬間、
鼓動が大きく跳ね、目を見開いた。
「ねぇこれ、なんて読むの〜?
ランちゃん、教えてくんなかったんだよ〜!」
「……いつか、読めるようになるよ」
「もぉー!ランちゃんと同じこと言うー!!」
「・・・」
「ねぇおにーちゃんはー?
おにーちゃんは、誰がダイスキなの〜?」
三ツ谷は何も言わずに
鉛筆を握ると、その下に、
アルファベットで
ランの名前を書いた。
「…なんて読むのー?」
三ツ谷はフッと寂しげに笑った。
「いつか、読めるようになるよ。」
またそれーーー!?!?
と叫ぶ2人の妹を他所に、
その文字にゆっくり指を滑らせる。
ふとその近くに、"東京卍會" と書かれている文字も目に入った。
もしも今後、本当に口を聞いてくれなくても
目を合わせても睨まれるだけだったとしても
それでもいい。
そもそも出会った初めから、俺以外の男がそうされてきたように、今になって俺がそうされるだけのこと。
ただ俺はずっと、ランには
俺だけの姫じゃなくて、
今までと変わらず、東マンの姫であってほしいんだ。
だから口聞いてくれなくても
蔑まれても
嫌われてもいい。
でもこれだけは覚えててくれ。
俺はずっと、お前の味方だ。
それで、もう一度謝らせてくれ。
「ゴメンな…」
そう静かに呟いて目を閉じる。
"私、三ツ谷くんのこと大好きだよ"
こんな俺に、
今まで何度、そう言ってくれただろう。
どんな…想いで……
この言葉は、
きっともう、二度と聞けない。
でも…ほんとは俺は…
「好きだよ、ラン…
多分この先も、ずっと。」
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