第9章 名も知らない君と(セト)
『…はっ』
目が覚めたのはいつもの孤児院にある僕の小部屋。
さっきのはなんだったのだろうか?…夢?…現実?
多分…前者の方だろう。
事実今……僕がいるのは自分の部屋だ。
…でも、いつの間に帰ったのか…自分の部屋に戻ったのか覚えてない。
そもそもどこからどこまでが夢なのかもはっきりわからなくて…その答えをしっているのはきっとあの子だけなんだろう。
『また…会いたいな。…貴女は誰なんですか?』
大きな独り言が静かに響き渡る。
この部屋には僕しかいないので…それに化け物が居る部屋には誰も近づかないだろう。誰にも届くことなく静に消えていった。
部屋を出て孤児院から脱げたし
あの場所へと記憶を辿りながら向かった。
『……なんで……』
確かにここなはず……間違っていないはずだ。
なのに……
なんで何もないんだ…
正確に言うとあの大きな屋敷があったはずの場所には何もなく……美しい草原の代わりに乾燥して亀裂の入った地面が広がっていた。
『夢幻…』
ぽと……
一粒また一粒と地面を濡らしていく。
一瞬雨かと思ったけど……どうやら自分が泣いているようだ。
ああ……なんであの子に恋をしてしまったのだろう
いるかもわからないのに。
会いたい……会いたい……会いたい……
未来でまた会えるのは、まだ知らない過去の話。